第20話
「なんか、後味わりーな」
「あじ?」
「気分が良くないってこと」
「すっきりしねーんだよ」
お客さんがいなくなった牧場で、モー太郎さんと一緒に山田さんがゴミを拾うのを手伝いました。
「責任を取って辞めるのは、メリーさんじゃなくて、アイツだろ?」
「メリーさん、辞めちゃうんですか?」
「辞めないよ。・・・アイツもだけど」
山田さんは集めたゴミを透明の大きな袋に入れました。
「この中に、アイツも入れてゴミとして出したいよ」
山田さんは、ぎゅっと袋を縛りました。
「どうして、社長はアイツを飼い続けてるんだろ」
「弱み、握られてんじゃないの?」
モー太郎さんが言いました。
「人間がオオカミに弱み握られてっとしたら、情けねーよ!牧場の中を引っ掻き回しておきながら、自分だけが牧場のために働いているなんて顔されると、マジで腹が立つんだよ!」
山田さんが怒った顔、初めて見ました。お千代さんを嫌っていることはわかっていましたが、今回、よっちゃんさんが辞めたことで、怒りが爆発したようです。
「山田さーん、こんにちは!」
声の主は、あの男の人でした。
「ローバさんに会いたくなって」
男の人はローバさんをなでながら、山田さんと話をしました。ローバさんは、男の人に寄りかかっているように見えました。
「メリーさんから、今、社長さんは外に出てると聞いたので」
山田さんがくすっと笑いました。
「僕のせいで、よっちゃんが辞めたんですか?」
「いや、アイツのせいですよ」
山田さんは、こちらに近づいてくるお千代さんを見ながら答えました。
ローバさんが男の人から離れ、お千代さんに向かって走り出しました。
私とモー太郎さんは、ローバさんの突然の行動に思わず顔を見合わせてしまいました。
お千代さんの前で止まると、ローバさんは
「私の彼に近づかないで」
と言いました。
「やっと、彼の気持ちがあなたから私に移ったところなの。邪魔しないで!」
ローバさんの甲高い声に、お千代さんは一歩後ろに下がりました。
「彼が好きだったのは、お千代さんだったの。よっちゃんじゃないわ。よっちゃんとは、サーカスの思い出話をしてただけ」
私はモー太郎さんに小さな声で
「本当ですか?」
と尋ねました。
「嘘に決まってんだろ」
モー太郎さんも小さな声で返事しました。
「なんで、嘘を」
「しっ!最後まで見てみようぜ」
男の人が山田さんに
「あのー、ローバさん大丈夫ですか?」
と聞きました。山田さんは男の人の耳に手を当てて答えました。
「オオカミが嫌いなシュンタロウさんのために、ローバさんはオオカミを追い払おうとしているだけです。ご心配なく」
話を聞き終わると、男の人は目を大きく開いてローバさんを見ました。
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