第19話

「アイツの言うこと聞いてさ、いいことあんの?メリーさん?」


山田さんの一言に、メリーさんが泣き出しました。


「よっちゃんがお嬢様だってわかっていたら、私、絶対、社長に嘘の報告しなかった!だって、お嬢様は・・・お嬢様は・・・お父さんの娘さんだから。お嬢様を悲しませることは、お父さんを悲しませることになるから」


メリーさんは私を抱きしめて何度も「ごめんなさい」と言いました。メリーさんの泣き声を聞いて、ローバさんとチッタさんが集まってきました。


「だって、お嬢様が牧場を辞めたら、私を管理部門のチーフに推薦してくれるって」

「アイツが言ったの?」


牧場主さんと山田さんが同時に言いました。メリーさんが小さな声で「ハイ」と言いました。私たちは尻尾を上げて驚きました。


「管理部門のチーフって、オレの上司になるってこと?」

「出世をちらつかせて、手下を使い、自分の思い通りに事を動かそうとするなんて。黒いのは、表面だけじゃなかったのか」


と、モー太郎さん。


「よっちゃん、かわいそうだよー」


と、ローバさん。


「お嬢様が牧場を辞めてから、私、自分のしたことを後悔しました。こんなことして、チーフになっても、ちっとも嬉しくないなって。だから、お千代さんが社長に私のことを推薦する前に、正直に話そうと思って」

「アイツ、推薦するつもりなんか、ハナっからねーよ、絶対。メリーさん、だまされたんだよ」


山田さんの言葉に、チッタさんが「そうそう」とうなずきました。


「いいか、メリー。推薦するのはお千代でも、任命するのは俺だからな。悪いけど、メリーは山田のように飼育員としての経験も資格もないから、山田より上の役職には、なれんぞ」


メリーさんが両手で口を押さえました。


「メリーさん、あなたは悪くないよ。あなたも傷ついたんだから」


チッタさんが、メリーさんのそばに寄りました。


「社長。私、この牧場辞めますから、お嬢様を呼び戻してください。お願いします!お願いします!」

「それは、できないよ。メリー。よっちゃんは、自分から辞めたんだ」


牧場主さんは下を向いたまま、答えました。


「私、責任を取って辞めます。私のせいで、お嬢様が牧場を辞めさせられたんです。私がもっと早く、お嬢様だってことに気づいていたら」

「メリー。悪いのはお前だけじゃない。俺だって、よっちゃんがあの人のお嬢さんだってわかっていたら・・・」


牧場主さんは、泣きじゃくるメリーさんの背中を何度も何度もさすりました。

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