第18話
「シープちゃん、あのね。私、シープちゃんに謝らなくちゃならないことがあるの」
メリーさんが、うつむきながら話し始めました。
「お嬢様が仕事中おしゃべりしてるって、社長に言ったの、私なの。私、知ってたの。お嬢様、あの男の人…スドウシュンタロウさんの質問に、丁寧に答えてるだけだってこと。おしゃべりなんかしてない。ちゃんと仕事してたの。でもね・・」
メリーさんがハンカチで目を押さえました。山田さんがメリーさんの肩をポンポンと叩きました。メリーさんが顔を上げて、話を続けました。
「お千代さんが、シュンタロウさんとお嬢様が話しているところを見たときから、『あの人は職務怠慢だ。許せない』って、お嬢様のこと、嫌うようになって」
「で、俺に、よっちゃんが仕事中に男とデートしてるって言ったのか?」
「はい、そうです。ホントに、ホントにお嬢様は、仕事中にデートもおしゃべりしていないんです!社長、シープちゃん、ごめんなさい」
メリーさんが深々と頭を下げました。
「お嬢様、この牧場と、仕事が大好きだったんです。でも、私が・・・」
メリーさんは、再び、ハンカチで目を押さえました。
「オレ、よくわかんないんだけど、なんで、アイツ、じゃなかったお千代さんは、よっちゃんのこと嫌うの?」
「それはね、山田さん。お千代さんはシュンタロウさんのこと、好きだったのよ」
牧場主さんが、私の毛をぎゅっと引っ張り、ささやきました。「俺は約束を守ったぞ。アボカドサラダは、おごらない」
「マジ?」
「ホント。私、お千代さんに頼まれて、何度もシュンタロウさんに、お千代さんの部屋に行ってくださいってお願いしたの。お千代さんも私も、あのときまで、シュンタロウさんだってことに気がつかなかったけどね」
「メリー。お前も、その男のことが好きだったんだろ?」
「かっこいいなと思ったけど、お千代さんの好きな人を好きになると後が怖いから、好きになったことはありません」
「へー。オオカミって怖いんだな」
山田さんは持っていたバケツをひっくり返して、メリーさんに「座って」と言いました。
「その俳優は、メリーの部屋に行ったのか?」
牧場主さんの声が嬉しそうに聞こえたのは、私だけでしょうか?メリーさんは軽く首を横に振りました。
「シュンタロウさん、オオカミ嫌いなんだって。赤ずきんちゃんの話を聞いてから、オオカミが嫌いだって。お千代さんは人を食べたりしないから大丈夫ですよって言ったんだけど、『赤ずきんちゃんを食べたから、オオカミは絶対に許せない』と断られちゃった」
「シュンタロウさんって、意外とメルヘンな人なんだなあ。ファンになっちゃうかモー」
モー太郎さんがそう言って、私たち4人に加わりました。
「だから、オオカミさんは、イケメン俳優と仲良くしているよっちゃんに嫉妬して、この牧場から追い出そうとしたんだ」
「イケメンだなんて言葉、モー太郎、よく知ってるなあ。シープ、お前、イケメンって言葉、知ってるか?」
「知りません。牧場主さん、知ってるんですか?」
「人間をバカにするな。かっこいい男のことをイケメンって呼ぶんだ。娘が教えてくれた」
「追い出そうとしたかどうかは、私、わからない。たぶん・・・ただ、ちょっと意地悪したかっただけだと思うんです。お千代さんから、お嬢様が仕事中シュンタロウさんおしゃべりしていることを社長に報告するようにと言われた時、私、お千代さんにお嬢様はちゃんと仕事してますよって言ったんです」
「でも、お千代の指示に従ったんだ」
メリーさんがうなずきました。
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