第17話

「お前、俺のこと、怒ってるよな?」


昼食後、昼寝をしようと日当たりの良い場所を探していたら、牧場主さんに呼び止められました。


「怒ってなんかいません。悲しいだけです。珍しいですね。今日は、お千代さんと一緒じゃないんですね」

「具合が悪いんだってさ。今、宿舎で休んでるよ。そりゃ。怒るよな。俺が、よっちゃんを辞めさせたからか?」

「…ハイ」


私は牧場主さんに背を向けて、うつ伏せになりました。


「違うぞ、シープ。よっちゃんから、辞めたいと言ってきたんだ。あの映画監督と俳優が帰った後に、よっちゃんが突然『今日で辞めさせてください』って」


牧場主さんは、私の顔の方に回り正座しました。


「よっちゃんさんから『牧場に迷惑をかけたから辞めるんだ』って言われました。牧場主さん、よっちゃんさんは、どんな迷惑をかけたんですか?」

「そ、それは・・・」


牧場主さんは目を左右に動かしたまま、黙ってしまいました。


「ローバさんの食欲がないことに一番最初に気づいたのは、よっちゃんさんでした。ローバさんが少しでも食事ができるように、キャベツをせん切りにしたり、りんごをすりおろしたりしたのも、よっちゃんさんでした。牧場主さんとお千代さんが長いお昼ご飯に行っている間、看板をきれいにしたり、事務所を掃除したり、牧場のゴミをひろっていたのは、よっちゃんさんなんです。よっちゃんさんだって、牧場のこと考えてがんばっていたんです。どうして、よっちゃんさんに『辞めちゃ駄目だ』って言えなかったんですか?」


私は顔だけ起こして牧場主さんをじっと見ました。牧場主さんは、メガネをはずし、右手で目を何度もこすりました。


「社長。シープちゃんに昼寝させないと不機嫌になりますよ」


山田さんがメリーさんと一緒にやってきました。


「吠えてるだけのオオカミより、よっちゃんの方が全然仕事できると思いますけどね」


牧場主さんが、ギロリと山田さんをにらみました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る