第16話
「ところで、山田。あの親子は、有名なのか?」
「監督は去年、日本ピカデリー賞を取ったんですよ。『あなたにセレナーデ』っていう映画で」
「ああ。肉じゃがを作る女が好きだって言った男のところに、肉じゃが作りに行った女の話だろ?うちのバカ娘が、なんとかシュンタロウがかっこいいって三度も観に行ったから覚えているよ。エドガワミホとかいう作家の書いた小説が原作だろ?」
「エドガワじゃなくてフカガワです。深川三帆が書いた小説が映画になったんですよ。で、社長。今、そちらにいらっしゃるスドウシュンタロウさんが、お嬢さんが3度ご覧になった映画の主役です」
牧場主さんは口を大きく開けて、山田さんをみつめました。
「社長…。社長っ!メガネがずり落ちていますよ。それから、早く、お千代さんを連れ戻してくださいよ。スカウトしてもらおうと必死の形相でアピールしてるお千代さんに、日本の映画界を代表する監督と俳優がおびえています」
牧場主さんが小走りで、男の人とあごひげのおじさんの間を行ったり来たりしているお千代さんのそばに近づきました。
「このオオカミはおとなしいですな」
おじさんが、牧場主さんに言いました。
「ええ、よく訓練されてますので」
お千代さんが「うー」とうなりました。牧場主さんに「私を映画で使うように言ってください」と伝えたからです。お千代さんの言葉がわからないおじさんと男の人は、一歩、後ろに下がりました。
「オオカミのお名前は?」
「用心棒です」
おじさんの質問に、山田さんが笑顔で答えました。
「社長とは相棒、ですけどね」
「で、俺たちが辛抱、か」
モー太郎さんがつぶやきました。
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