第14話
あごひげのおじさんが手を叩きました。
「久しぶりに聞いたよ。ありがとう。でも君、よく知ってるね。この歌を」
メリーさんが「ありがとうございます」とお辞儀をしてから、私の顔を見ました。
「私、昔、サンデーサーカスで歌ってたんです。この歌を。それから、シープちゃん、あ、ここにいる羊なんですけど、シープちゃんもサンデーサーカスにいました」
「めー」
そうです、と言いました。
「メリーさんとその羊、つまり、メリーさんの羊ってことです」
牧場主さんの声がしました。左側にはピタリとお千代さんがくっついていました。
「あの、失礼ですが、二時にお約束していた・・・」
牧場主さんの質問に、あごひげのおじさんは、「こりゃ失礼」と言いながら名刺を出しました。
「こいつの父親です。息子が何度もお仕事の邪魔をしたので、今日はそのお詫びに」
「スドウカンタ、さん。で、息子さんは仕事されていないんですか?昼間から、こんな所に来るなんて」
山田さんとモー太郎さんが、顔を見合わせました。モー太郎さんが首をかしげ、山田さんは両手を横に広げ肩を上下に動かしました。あごひげのおじさんは、頭をかきながら大声で笑いました。
「いやいや、全く。お恥ずかしい限りで・・・。子供の頃にサンデーサーカスに連れて行ったのがきっかけで、動物が好きになりまして。それはよかったんですが、大人になってから働くのが嫌いになり、時間を見つけては動物を見たり触ったりするようになってしまいまして。いつになったら働くんだろうかと、困っておるんですよ」
「まあ、動物の好きな人に悪い人はいないっていいますからね。だって、この方は」
山田さんが、牧場主さんのそばに近づきました。
「この牧場に何度も足を運んでいただくのはありがたいのですが、スタッフに話しかけるのは止めていただきたいですね。迷惑しているんですよ、仕事を邪魔されるって」
「いやいや、そんなことないですよ!いやだなぁ、社長!俺もよっちゃんも、そんなこと、一度も思ったことないっすよ!社長に、迷惑してるなんて言ってないじゃないスか」
「そうだったんですか。本当に、申し訳ございませんでした」
男の人が、深々と頭を下げました。山田さんは男の人よりもっと深く頭を下げて「謝んないでくださいよ」と言いました。
「私が悪いんです」
突然、よっちゃんさんが言いました。きいちゃんがびっくりした顔してよっちゃんさんを見ました。
「私が、悪いんです、社長。スドウさんがサーカスのこと・・・サンデーサーカスのこと覚えていてくださったのが、とても嬉しくて。だから・・・スドウさんを責めないでください」
「いや、僕が悪いんです。社長さんがおっしゃるとおりです。僕がスタッフの方にご迷惑をかけました。・・・でも、知りたかったんです。サンデーサーカスがなくなった本当の理由を。団長さんのお嬢さんだったら、ご存知じゃないかと思って」
「え?」
メリーさんが私を見ました。牧場主さんも私を見ました。私は、ウンウンとうなずきました。
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