第13話

「おー、シープ。珍しいなあ。わざわざ、あいつらが仕事サボっておしゃべりしている理由を教えに来てくれたのか」


と、メガネを上げながら話す牧場主さんを無視して、メリーさんに近寄りました。


「メリーさん、お願いです!サンデーサーカスの歌、歌ってください!」


突然のことで、メリーさんは目をぱちくりさせて驚いています。


「あっ!社長!よっちゃんが、あの男と。ほら、また、一緒にいますよ」


お千代さんが、右の前足でみんなのいる方向を指しました。


「本当だな。これで、決まりだな。よっちゃんの解雇」


嬉しそうな声で牧場主さんが言いました。


「メリーさん、カイコってなんですか?」


メリーさんは、しゃがむと小さな声で私に教えてくれました。


「よっちゃんが男の人とおしゃべりしてるって、お千代さんが社長に言ってたんだけど、よっちゃんは否定してたのね。でも、今日、それが嘘だってわかったから、よっちゃんにこの牧場を辞めてもらうの」

「ダメーーーー!絶対、ダめめめめめめめーーーっ!」


自分でもびっくりするぐらいの大きな声で叫びました。


「メリーさん、早く来てくださいっ!歌ってください!」

「シープちゃん、どうしたの?」


お千代さんが、そう言って牧場主さんと顔を見合わせました。牧場主さんは首を傾げています。


「お客さんが待ってます。メリーさん、急いでっ。メリー、ゴー!」


メリーさんと目が合いました。メリーさんはウンとうなずくと、私を追い抜いて、みんなのいるところへ走りました。私もメリーさんの後を追って走りました。


「おい、シープ、どうしたんだ?なんで、メリーは向こうへ行ったんだ?」


振り返りませんでした。牧場主さんとお千代さんの顔は、見たくありません。よっちゃんさんをこの牧場から追い出そうとしている、2人の顔は。


「メリーさん、歌ってください。サンデーサーカスで歌った歌。なんでもいいです」

「シープちゃん。どうして、私が歌わなくちゃならないの?」

「歌えばわかります。覚えている歌を歌ってください」

「あ・・・。うん・・・。わかった。今日のシープちゃん、怖い」

「よっちゃんさんは、大事な人です。よっちゃんさん、いじめる人、嫌いです」


メリーさんは、しばらく私の顔を見ていましたが、私が右の前足でメリーさんの左足をポンポンと叩くと、メリーさんはゆっくりと息を吸いました。

サーカスにいた頃からメリーさんにしていた「上手に歌えるおまじない」です。



君が大人になったそのときに

教えてあげよう 夢の続きを

背伸びしなくてもいいんだよ

あせらなくてもいいんだよ

ゆっくり大きくなればいい

天使でいられる時間は短い

次の日曜日が来ても

君はまだ子供のままだろう

たくさん泣いていいんだよ

もっと笑っていいんだよ

ずっとそのままでいてほしい

天使のままでいてほしい



「あ、この歌・・・」


男の人が、振り返りメリーさんを見ました。


「サンデーサーカスで聞いた」


男の人が、よっちゃんさんの方を向きました。


「そうだよね?サンデーサーカスのエンディングの歌、だよね?」


よっちゃんさんは、黙ってうなずきました。



今日もたくさん笑ったかい?

今日もたくさん驚いたかい?

君と過ごした時間は

いつか空の宝石になる

だから今は

宝石をたくさん作ることが

君との夢なんだ

君が大人になったそのときに

一緒に探そう 思い出の宝石を

君が大人になったそのときに

教えてあげよう 夢の続きを

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