第12話

「あなたのお父さんには大変お世話になりました。まだ、悲しみは癒えないのでしたら、お父さんやサーカスの話はこの辺で止めておきますが」

「いえ、もう大丈夫です。亡くなって3年が経ちましたから」


あごひげのおじさんの顔をしっかり見て、よっちゃんさんは答えました。


そうなんです。団長さんは、もうこの世にはいないのです。いつも笑っている人でした。サーカスで働いている人は団長さんを「お父さん」と呼んでいました。団長さんは、メリーさんの歌が大好きでした。声がいいと、目を細めながら聞いていました。


メリーさん、どこに行ったんだろう・・・?


「なるほど。それで、獣医を目指しているんですか」

「なれたらいいなって思います。動物とともに生きていきたいんです。それが、サーカスの動物たちに対する、私の償いになれば」


あごひげのおじさんとよっちゃんさんが話している間、男の人はローバさんの足を何度もさすっていました。


「ローバさん、僕たち、今日で会うのが最後になると思う」


ローバさんは、ゆっくり目を閉じ、うつむきました。




「どういうことですか?」


きいちゃんがモー太郎さんに尋ねました。


「あの男、最後は若い女を選んだってことだよ」

「ローバさん、遊ばれたのねー。かわいそ」


花子さんが大きなあくびをしました。


「ローバさん、振られちゃったんですか?」


きいちゃんが、もう一度モー太郎さんに尋ねました。


「さっき、ローバさんのこと恋人だって言ったから、ローバさんのこと振ってないと思うよ。でも、人間と動物は、結ばれないってことだね」


きいちゃんは、チッタさんに


「ローバさん、どうなっちゃうんですか?」


と今にも泣き出しそうな顔で聞きました。


チッタさんは、尻尾できいちゃんの体を触りながら


「大丈夫よ。ローバさん、強いから」


と、優しい声で答えました。


よっちゃんさんと、あごひげのおじさんがお話をしている後ろに、牧場主さんとお千代さんと、そして、メリーさんが歩いてくるのが見えました。私は、走り出しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る