第9話

翌日。


「また昼寝か?」


うつぶせの状態で両前足と後ろ足を伸ばして日光浴をしていたら、牧場主さんが声をかけてきました。


「違いますよ、牧場主さん。天日干しです」

「そうなのか。でっかいじゅうたんだと思ったら、シープだったのか!」


牧場主さんは、大げさに驚きました。


「…座布団でもありません。羊毛布団でもありませんからね」

「で、何、干してんだ?」


「この、自慢の羊毛です。さっき、よっちゃんさんにシャンプーしていただきました。ドライヤーで乾かすと、ウール100パーセントになりませんから、自然乾燥しています」


風が私の体をなでるように通り過ぎていきました。白い毛が右に左にゆっくりと動きました。


「お前、変なところに、こだわってるんだな…」


牧場主さんが、目をパチクリさせながら言いました。


「自己管理、大事です。お千代さんがいつも、言ってます」

「なるほど、自己管理、ねえ」


牧場主さんが、私の体をなでながら答えました。


「お前、太ったんじゃないか?」


その一言は、私の体に電流が走ったかのように、ビビビっと私の心に突き刺さりました。こんなとき、お千代さんなら「セクハラです!」と大声を上げるのでしょうが、私は、そんなこといいません。


「目の錯覚ですよ、牧場主さん」


牧場主さんは、目をパチクリさせました。


「そうか?」

「はい、そうです。最近、牧場主さん、お忙しい日が続いてお疲れのようですから、私が太って見えるんです」


牧場主さんは、メガネを外し、右手で両目を何回かこすりました。そして、メガネをかけなおし


「そうかも、しれないな。お前のせいで」


と、言いました。


「めめっ。また私、何か、しましたか?」

「いや。冗談だ。でも、疲れているのは、本当だ。忙しくて」


牧場主さんは私に向かって微笑みましたが、私には、泣きたいのをこらえているように見えました。


「よっちゃんは、そんなに、シャンプーが上手なのか」

「はい!とっても上手です。ゾウの花子さんが、一番、ほめています」

「そうか。よっちゃんは、シャンプーは上手だけど、仕事中に、男とデートしてるだろ?」

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