第5話
「ちょっと!社長!聞いてくださいよ!」
牧場主さんが私に何を言いかけた時、お千代さんが猛スピードで牧場主さんと私のところにやってきました。
「ローバさんに病院行って検査しましょうと言ったら、自分は病気じゃないから病院へ行かないって言うんですよ!私がこんなに心配しているっていうのに」
「そりゃそうだろう、お千代。前にも言ったとおり、アイツは年だから食べる量が落ちているだけで、病気じゃないんだから」
「何言ってるんですか、社長!社長は何も知らないから、そんなん、のんきなこと、言えるんですよ。前に勤めていた動物園で、食欲が落ちたチンパンジーがいたんです。本人は大丈夫だって言ってたけど、飼育員が説得して病院で検査を受けたらストレス性の胃炎だってことがわかりました」
一気にまくしたてたお千代さんが、牧場主さんにさらに一歩、詰め寄りました。
「病院へ連れて来るのが遅かったら、手遅れになってたって。お医者さんが言ってました」
牧場主さんが、ゆっくりと一歩、下がりました。
「・・・わかった。俺からローバに病院へ行くよう話してみるよ」
ブルンと大きく体を振ったお千代さんが、ツンとすました表情で
「じゃ、行きましょう」
と、言いました。
「どこへ?」
きょとんとした牧場主さんに向かって、お千代さんは言いました。
「社長は、いつも『俺が言う』と言って、本人に言ったことはありません。今までは、見逃してきましたが、今回は、ローバさんの命がかかっていますから、きちんと説得してもらいますからね。これから、ローバさんのところに行きましょう」
気取った足取りで私のなわばりを去るお千代さん。牧場主さんは私に「やれやれ」と言いたげな表情を私に見せると、がっくり肩を落として、お千代さんの後を追いました。
「どした?昼寝禁止令でも出されちゃった?」
山田さんが、おどけた顔してやってきました。
「ローバさんが、病院に入れられちゃうかもしれません。あまりご飯、食べないから、病院で検査させるって。今、2人でローバさんを説得しに行きました」
山田さんは持っていたバケツを地面にたたきつけると
「あの馬鹿っ。また、余計なことしやがって。俺の仕事、増やす気かっ!」
と叫び、2人を追って走り出しました。
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