第4話
「コラッ!お前、昼寝してただろう?」
牧場主さんの大きな声で目が覚めました。あとちょっとで、大好きなアボカドサラダを食べられるところだったのに…。
「いーよなぁ、お前は気楽で。俺はお前の餌を調達するのに、こんなに苦労してるっていうのに…」
時計を見ると、まだ、1時15分。お昼休みは1時30分までです。お昼ごはんを食べた後の昼寝は、私にとって楽しいひとときです。
「ち、違いますよ。牧場主さん。今日はお天気がいいので、目をつぶって、ひなたぼっこをしてるんです」
「いびき、かいてか?」
「めめっ!」
「アボカドサラダ…もう一皿って、寝言言ってか?」
「めめめっ!」
私はもう、言い訳ができません。牧場主さんがニヤリと笑いました。そして、小さい声でこう言いました。
「昼寝するなと言わないけど、オオカミに食べられないように、気をつけろよ」
オオカミのお千代さんがこの牧場に来る前、牧場主さんは、動物たちのなわばりをまわって、話かけてくれました。私たち動物は、その時に悩み事を相談することもあれば、人間の世界の話を聞くこともありました。でも、今は、お千代さんが外出のときか、お休みのときしか、牧場主さんは、私たちのなわばりをまわってくれません。私は、時々、相談したいことがあって牧場主さんのお部屋を訪ねますが、部屋からお千代さんの声が聞こえると、引き返します。お千代さんは「相談事があったら、私に」と言いますが、本能的にか、どうしても相談する気にはなれないのです。
「ところで、婆さんは、ちゃんと飯食ってんのか?」
牧場主さんが、突然、私の耳元に近づき、低い声でささやきました。
「バーサン?」
「婆さんだよ。この牧場で一番、年取ってる」
「ああ、ローバさんのことですか?お昼ごはん、食べてましたよ」
「そうか。でも」
牧場主さんは、私の顔を見てニッコリ微笑みました。
「俺は、婆さんがローバだって、一言も言ってないぞ」
私は「めめっ!」と声を上げ、牧場主さんの顔をしばらく見ていました。
「牧場主さんっ、ひ、ひどいです」
牧場主さんは、楽しそうに笑いました。
「どうして、ローバさんのことを聞くんですか?」
私の頭をなでながら、牧場主さんは、ふうっと息を吐きました。
「いや、お千代がさ、ローバが病気なんじゃないかって言うんだよ」
また、お千代さんの話か。私は、心の中でため息をつきました。
「俺はさ、アイツは年だから食べる量が減っただけじゃないかって言ったんだ。きいちゃんや、モー太郎に聞いても『ローバさんは元気だ』って言うしさ、山田もそう言うからさ」
「そうですよ、ローバさんは病気じゃありません!」
牧場主さんは、私の目を見てうんうんとうなずきました。ローバさんが恋煩いだってことは、お千代さん以外の動物たちと山田さんだけの秘密なんです。
「ところがさ、お千代が『あの食欲のなさは異常だ。病院で検査したほうがいい』って言うんだ」
「お千代さんは最近、私たちと一緒にご飯食べていないから、ローバさんの食欲がないことを知りません。たぶん、メリーさんが私たちの食事の様子を見ていて、お千代さんに報告したんでしょうね」
「えっ!そうなの?」
私は、うんうんと大きく首を縦に振りました。
「お千代さん、お昼ご飯は、いつも牧場主さんと一緒ですし、夕有ご飯は小屋に戻って一人で食べてます」
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