第3話
「あ、どうも。こんちわー」
山田さんが、誰かにあいさつする声が聞こえてきました。
「来た、来たっ。ローバさんの好きな人」
モー太郎さんが、私たちに教えてくれました。山田さんの右隣に、ジーパンにTシャツ姿の男性がいました。男性の声に気づいたのか、ひょいと顔をあげたローバさんが小走りに、その男性の方へ近づいていきました。
「山田が言ってた。ローバさん、あの男が来ると元気だけど、いなくなると何も食べなくなるんだって」
「あ、本当だ。ローバさん、あの男の人が渡したニンジン、食べてる」
「嬉しそう」
「さっきまで、元気なかったのが、うそみたい」
山田さんが、Tシャツ姿の男性にニンジンを渡しました。
「もう一本、渡してください。まだ、いけるみたいですよ」
「本当ですか?・・・あ、本当だ。やっぱりかわいいな、ロバって」
ローバさんは、男性に頭をなでてもらうと、色っぽい声で鳴きました。
「ウフフフ、だって。ローバさん、かわいいと言われて喜んでますね」
「いや、本当にかわいいですよ。ローバさん」
「あ、男の人と見つめ合ってる。今、男の人が、ニコッと笑った。ローバさん、照れて下向いた」
「トシがばれるから、下向いたんだよ」
「モー太郎さんっ!」
私たちが、ローバさんの様子を見ながらおしゃべりで盛り上がっていると、ゾウの花子さんがやってきました。
「あー、よっちゃんのシャンプーは気持ちいい。次はだあれ?」
「花子さん、おかえり。次は、ローバさんだけど、今、デート中だから、私、先にシャンプーしてもらおうかな?」
チッタさんが、シャワー室へ向かいました。
「え、デート?誰?ローバさんが?あの男と?」
花子さんは、びっくりした顔で男の人から5本目のニンジンを食べさせてもらうローバさんをしばらく見ていました。
「あの男、よっちゃんのこと、好きだよ。たーぶん」
モー太郎さんも、きいちゃんも、私も、大きな声で「ええっ!」と叫びました。ローバさんがこちらを振り返りました。が、すぐに、男の人のほうに顔を向けました。
花子さんが、小さな声で言いました。
「あの男、よっちゃんがここに来る日に来てるよ」
「本当ですか?」
私も、小さな声で聞きました。
「アタシ、見たよ。あの男、よっちゃんと話してるところ。1回じゃないよ。何回も」
よっちゃんさんは、週に2回来てくれるアルバイトさんです。髪が長くて、背が高くて、目がくりっとしたかわいい人です。シャンプーがとても上手です。優しいです。私は、よっちゃんさんが大好きです。ローバさんがひそかに想いを寄せている男の人が、優しくてかわいいよっちゃんさんを好きなるのは当然のことだと私は思いました。
「あの2人なら、お似合いだな」
モー太郎さんがうなずきました。私たちも、うなずきました。
突然、山田さんが私たちのところに走ってきました。
「そろそろ、社長とメリーさんと黒いアイツが帰ってくるよ。ここでみんな集まっていたら、また、アイツが朝礼で『仕事中におしゃべりするな』って偉そうに説教しちゃうから。早く、自分のなわばりに戻って!」
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