第2話

最近、ロバのローバさんが、ご飯を残すようになりました。


「シープちゃん、これ、食べて。残すのもったいないから」

「ありがとうございまーす!」


ローバさんからキャベツの千切りと、りんごのすりおろしをもらいました。


「具合、悪いんですか?」


キリンのきいちゃんが聞くと、ローバさんは


「大丈夫。今日は、全部食べられないだけ。元気よ」


と、小さな声で答えました。


チーターのチッタさんが


「ここ一週間くらい、食欲がないみたいよ、ローバさん」


と、私にささやきました。


「死期が近いんだよ」


話に加わってきた牛のモー太郎さんの一言に、私たちは


「モー太郎さんっ!なんてこと言うんですか!」


声をそろえて怒りました。


「そう思ったから、言っただけじゃん。だって、人間でいうと、後期高齢者だぜ」

「そんなにトシなんですか?ローバさんって」

「シープちゃん!だめですよ。そんなこと言っちゃ!」


モー太郎さんの言葉に驚いたら、きいちゃんに怒られました。

あたりを数回見回したモー太郎さんは、声をひそめて私たちに言いました。


「恋煩いだって。ローバさん」

「コワイヅラ?」


モー太郎さんが、尻尾で私を叩きました。


「羊毛のアンタから見たら、俺の毛は作りものに見えるんだろうけど。ヅラじゃないよ、俺は!俺が言ったのは、恋煩いだよ、コ、イ、ワ、ズ、ラ、イ!」


「コイワズライ?」


初めて聞く言葉に、私たちは、また驚きました。


「そ。人間を好きになってから、その人のことばかり考えちゃって。それで、食欲がなくなったんだってさ」

「人間を、好きに?」

「ローバさんが?」


そう言って、きいちゃんとチッタさんが、お互い顔を見合わせました。


「人間を好きになると、ご飯が食べられなくなっちゃうんですか!モー太郎さんっ、私も、そうなっちゃうんですか?」


私の質問に、モー太郎さんは、ちょっと首を傾げました。


「アンタは…、ならないよ。好きな人のことを考えると、ご飯の量が倍ぐらい増えると思うよ」

「あー、良かった」


ホッとしました。ご飯が食べられないのは、つらいことですから。

「私は、大丈夫だって」と、きいちゃんに言おうとすると、きいちゃんが下をむいています。肩がピクピク動いています。


「アレ、どうして、きいちゃん、笑ってるんですか?・・・それに、チッタさんまで?」

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