読んだらお前も記憶所持罪で逮捕する

ちびまるフォイ

好奇心所持罪

「おい、貴様。どうしてここに閉じ込められているかわかるか」


「わかるわけないだろう! いったい俺がなにをしたっていうんだ!」


「ならばヨシ!! 釈放!!」


「ええ!?」


なにがなんだかわからないまま解放された。

いったいなんだったのか。


「なんだ、実はなにも悪いことなんてしてなかったんじゃないか」


と、自分の正義を確信したものの世間の評価は冷たかった。


「え? 前科あるの? ダメダメ、雇えないよ」

「いやぁ……逮捕歴ある人とはちょっと、ねぇ……」

「私付き合うなら悪いことしない人じゃないと無理!」


周りの反応という名の状況証拠をかき集めた結果、

やっぱり自分は悪いことをしてとっ捕まったのだと思った。


「しかし……俺はいったい何をしたっていうんだ……」


思い出そうと思っても何も思い出せない。

お酒も飲めないので記憶が飛ぶようなこともない。


記憶ーー。


「あ! そういえば!!」


ネットで情報を探すと「記憶所持罪」についての記述を見つけた。

内容を読めば読むほど自分の境遇に合致してくる。


「本来得るべきではない記憶を得てしまった人間は

 警察によって逮捕されて不都合な記憶を抜き取られて解放される、か」


今では何も思い出せないが、なにか都合の悪いことを見聞きしてしまったのだろう。

いったいどの記憶を抜かれたのかが気になってしまう。

まるで失われた自分の半身を取り戻すように渇望は止まらない。


「……探してみるか」


警察は逮捕して収監することはできても記憶を抜くといった

専門技術が必要な環境があるとは思えない。


そこで調べてみると「記憶倉庫」なる場所を発見した。


従業員の制服で偽装して倉庫に侵入すると、

天井に届きそうなほど高い金属ラックにはたくさんのフィルムデータが置かれていた。


「すごいな……これ全部記憶なのか……」


倉庫には意図的に残したい楽しい記憶なども保管されている。

預けてしまえば改ざんされることも色あせることもないのだろう。


「っと、俺の記憶を探すんだった」


慌てて本来の趣旨を思い出して探索を続ける。

あっという間に自分の記憶の場所を突き止めた。


「俺の記憶……俺の記憶……あった」


俺の記憶はいくつもあったが、

そのうちの一番古い記憶を手に取り記憶フィルムを開いた。

いったいどんな国家的な第一級の秘密が隠されているのか。


「……あれ? こんなものなの?」


記憶所持罪として押収された記憶はなんてことない記憶だった。

国家の大切な情報を知ったわけでも、軍事機密を見たわけでもなかった。



ビービービー!!


『記憶の違法な閲覧を確認しました!』



「しまった!!」


警報が鳴るやすぐに警察が駆けつけて捕まってしまう。


「またまたまたお前か!!」


「"また"が多いですよ!」


「もういい加減にしろ! 記憶所持罪で逮捕する!」


「ちょっと待ってください! あの記憶のどこが問題なんですか!

 ここに保管されている記憶はソフトクリーム食べただけの

 なんてことない記憶でしょう!?」


「ああそうだ!」


「こんな記憶を所持することになんの不都合があるんですか!?」


警察は記憶倉庫にある記憶抜き取り装置を俺の頭に刺した。

記憶が抜き取られる前に答えた。



「この記憶倉庫のことを知った記憶所持罪で逮捕する!!」



記憶倉庫に関する記憶が抜き取られ、倉庫の棚に置かれた。







「おい、貴様。どうしてここに閉じ込められているかわかるか」


「わかるわけないだろう! いったい俺がなにをしたっていうんだ!」


「ならばヨシ!! 釈放!!」



そうして、俺はまたなにが原因かわからないまま解放された。

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