方針、決まりました。


 部屋に戻り紙にメモしようと思ったが、ふと気づく。

 ここってペンとかじゃなくて筆じゃん!子供の手で書いたらきっとあとから読めなくなる…!


 もう少し大きくなったらいつでも見直せるように文字にしておこう。


 えっと『平安乙女〜妖怪絵巻〜』という乙女ゲームはそのタイトルの通り平安時代の陰陽師、妖怪とかそういう関係の人達と恋に落ちるっていうファンタジーが入った作品。


 『へいおと』の攻略対象は隠しキャラの道満含めて五人。


 まずメインキャラの安倍晴明。確か道満と同い年って設定だったはず。晴明は私の推しキャラなんだけど、彼のルートで頼光と共に東雲は対決の後、東雲は死亡してしまうので、東雲かもしれない私は正直な話あまりこの人には会いたくない。


 二人目、源頼光。源氏の武士で色々な妖怪を退治したという逸話を持つ人物。

確か頼光は私より十歳くらい年上だった気がする。そして頼光ルートでも晴明と一緒に東雲を退治するので、この人にも関わりたくない。


 三人目は鞍馬天狗の常磐ときわ。彼はヒロインを嫁にしようと何度も攫おうとしてきた。なんでも嫁は攫って貰い受けるものらしい。なるほど、わからん。


 四人目は小野篁おののたかむら。彼は閻魔大王の補佐官として働いている。全ルートで死んだ東雲を直接地獄まで落とし、閻魔の前で有罪にしたのはこの人。


 五人目は芦屋道満。東雲のことも自分の父のことも自分自身も全部道具だと思っている人物で、思い通りに行かなければ殴る蹴るは当たり前だし、最悪殺すってこともよくある。今のところそういった感じは見受けられないけど要注意人物。

 というか常磐と篁と道満ルートって途中で東雲は道満に殺されてるんだよね。任務を何度も失敗したからって。怖すぎでしょ…。


 そうそうこのゲームのヒロインは私の妹になるんだよね。

 妹の顔を思い出してみれば確かにヒロインの面影がある。名前もデフォルト名と同じで、珠季たまきって名前。

 兄の東雲って設定が大幅に変更されてお姉ちゃんになってるんですけど、公式的に大丈夫ですかね??てかファンから炎上来そうな案件じゃね??

 全部今更だけど!!


 ていうかどこのルートでも東雲死亡エンドなので本当にこれ回避しないとまずいんじゃあ…。


 でもどうやって…あ、そういえば。


「憎しみに支配されねば憑き物だけを祓ってやれたかもしれないのに…残念な事ですが…」

「完璧に妖怪の魂と融合しきったものは妖怪だけ無理に引き離そうとすれば器の主も死ぬ、そういうものです」


 って晴明ルートで晴明がそう言ってたシーンがあった。


 え、てことはお師匠様は憎しみを育てろ的なこと言ってたけどそれはむしろ犬神の魂を完全融合しちゃうわけで、私としては逆効果なわけだよね。


 えっと、じゃあとりあえずの方針は二つ。

 まずは憎しみを育てない。

 二つ目は、とりあえず道満に殺されないように道具扱いされないようにする、むしろ仲良くする!


 うん、そうしよう、決まりっ!

 ゲーム開始が十五歳の成人の宴からだから、まだ十年余裕があるし!まだ間に合うよね!


「お前まだおきてんのか」

 突然かかる声に肩が跳ねる。

 ひいっ…!びっくりした…!

「はやくねろって、それだから背がのびないんだぜ」

「せはべつにのびなくてもいいもん」

「いやそういう意味で言ったんじゃなくてな…。なんで今までおきてた?」

「…いろいろかんがえてたら、ねれなかったの」

 頬をぷくりと膨らませてみればため息が返ってきた。

「しゃーねぇな、今日だけいっしょにねてやる」

 私をだっこして灯りを消し、しとねの畳までいくとそのまま横になる。つまり抱きしめられたまま寝ている。

 こいつにパーソナルスペースないのか…!!


「ちょ、ちょっと…!」

 軽く背中を叩くけど特に気にしてないどころかむしろ不機嫌そうにぎゅっと抱きしめてきた。

「うるせぇ、ねかせろ…」

「は、はい…っ」


 掠れた声にどくんと心臓がはねる。

 び、びっくりしたぁ…!なに今の!!心臓に悪いよ…!!てか少年にどきどきするとか私気持ち悪っ…!!これでも私中身大人なのに…!!

 で、でもさ、しょうがないじゃん、道満の声なんか色っぽかったんだもん…!


 色々な言い訳で頭の中をぐちゃぐちゃにして早く眠気が来るように祈るように目を瞑った。

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