第三章 紺色のパーカー
彼女は掃除をすることが大好きだった。
ふと夜中に目が覚めて床が汚れていると、真夜中であろうが掃除機をかけると言っていた。
でも、家族からは騒音がうるさいから止めて欲しいとブーイングだったらしい。
そしてY美ちゃんは明朗で活発な性格であり、そして何よりもお喋りも大好きだ。
大抵の女性はお喋りが好きであろうが、彼女の話しは聞いていて飽きが来ないのである。
友人とのエピソードでも、その内容が目に浮かぶような口調で話してくれた。
そのエピソードの会話には、登場人物のモノマネも披露するのである。
だから私が会ったことが無い人物でも、分かり易く登場人物の特徴をつかんで話しをするから想像ができた。
そして、彼女はジェスチャー付きで知り合いとのエピソードを語るから、そこがまた面白くて仕方がない。
有る日、彼女の友達に凄く綺麗なレディーがいると聞かされて、誰に似ているか彼女に尋ねると。
「んー!ジャッキー・チェンに似てるかな?」
ジャッキー・チェン似の美女って想像つかなかったけど、実際にそのレディーとお会いするとジャッキー似なのである。
ジャッキー似なのであるが、そこは的を獲ていて初対面にも関わらず彼女の前では意味もなく微笑んでしまった。
そして、いつものようにファミレスで話しをしていると、突然彼女は大きな包装紙を私に差し出してこう言った。
「これ!良かったら着てくれない?」
その中身を出してみると紺色の厚手のパーカーに、某有名メーカーのフロントプリントが描かれていた。
当時の私は洋服に無頓着だったこともあり、ブランド品には興味がなかった。
しかし、そのパーカーは彼女のセンスが伺える素敵なものだった。
「うわwww貰っていいの?嬉しいな♪」
そして私がパーカーを手に取って眺めていた目線の先には、同じ柄のパーカーを着た彼女の姿があった。
あ!?これはもしや夢にまで見たペアルックとやらか?
私の幼少期は女性とは疎遠であった。
いや、むしろ女性に敬遠されていたのである。
だから私が女性とペアルックを着ることは、一生ないのではと思った時期もあった。
だから来世では、その願望を叶えたいと強く思った時期があったが、今まさに今世でその夢が実現した瞬間である!
正直、嬉しさが大きいが慣れないことなので、そのペアルックを着た姿を他人に見られることが恥ずかしい気持ちもあった。
「これからは一緒に着ようね♪」
ファミレスの正面に座わり、そう嬉しそうに微笑んでいる彼女に思わず私は感動した。
「うん!ずっとずっと一緒だよ♪」
こんなに紺色のパーカーを愛おしく思ったことは、生まれて初めての経験であったのだ。
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