第二章 優しさと始まり
Y美ちゃんの自宅から私の職場までは車で10分ほどの距離だった。
だから平日の仕事帰りに彼女を迎えに行っては、ドライブへ行ったり食事をするようにいつしかなっていた。
職場近くの居酒屋には会社の人達が集まる場所があるのだが、その席にも彼女は参加してくれたのだ。
『可愛いね~Y美ちゃんだっけ?TETSUOの何処がイイの?』
少し酔った会社の先輩はY美ちゃんの隣に座り、そんなストレートな質問をしていた。
『TETSUOさんは優しい処がイイですよ♪』
そんな酔っ払いにも気遣いの出来る彼女がそこには居た。
『Y美ちゃんは良い子だね~♬TETSUOより俺と付き合わない?』
熊みたいに毛むくじゃらの腕をテーブルに乗せた先輩M氏が、そう言ってY美ちゃんを口説いていた。
『楽しい皆さんと一緒ならイイですよ』
そんな酔っ払いにも笑顔で会食に付き合ってくれるY美ちゃん。
私の事を優しいと言ってくれたが、彼女の優しい人柄だけが伝わってきた。
『ダメダメダメ!Y美ちゃんはTETSUOと言う彼氏が居るから』
私はM先輩とY美ちゃんの間を割って席に座りながらそう言った。
いつしか明るい彼女の笑顔を見ると、嫌なことが忘れられるようになっていた自分。
そして私の心の中でY美ちゃんの存在は大きくなるばかりだった。
当時、私の趣味は映画鑑賞だった。
Y美ちゃんと一緒にレンタル屋へ行った時のこと、この映画を観たとかお薦めの作品はこれだと雑談をしたことがあった。
その当時、レンタルが開始された最新作はディズニーピクチャーの「美女と野獣」だった。
そして、私がそれをレンタルしようとするとY美ちゃんはこう言った。
「その作品って彼女さんと一緒に観るんですよね?」
そう言われた私の心は少し動揺した。
夜の仕事をする今の彼女と、私はレンタルした作品を鑑賞するのが習慣だった。
週末になるとまとめて返却をしたりと、私が全て手配をしていた。
余り外へ出かけない彼女と過ごす時間は専ら映画鑑賞だったのだ。
映画が好きな人なら周知してることであろうが、昔は東海地区にもドライブインシアターなるのもがあった。
そのドライブインシアターとは、車中から映画を観る施設のことだ。
当時は春日井市にあるデパートの駐車場で鑑賞することが出来たから、機会があればドライブインシアターで映画が観たいと思っていた。
「ねえねえ!今週末に映画を観に行かない?」
そう言って私はY美ちゃんを誘った。
「うん!行きたい♪行きたい♪」
すると彼女から笑顔と共に、嬉しい返事をくれた。
そして、その週末の夜にY美ちゃんを自宅近くまで迎えに行き、ドライブインシアターの駐車場へ車を走らせた。
実は、その日の映画公開は、私が幼い頃から憧れていた作品の続編が公開されていたのだ。
その作品名は「スターウォーズ ファントム・メナス」だった。
いわゆるダースベーダーの幼少期エピソードの公開で、スターウォーズファン成らずとも待ちに待った待望の続編だ。
期待に胸膨らませて車中で落ち着きがない私とは対照的に、今日のY美ちゃんは物静かな雰囲気だった。
そして映画が始まると・・・・・彼女はすぐに熟睡してしまったんだ!
私はあまりにも彼女のことを知らな過ぎた。
当時の彼女は保母さんをしていて、仕事中はハードな肉体労働なんだろう。
幼児と接する仕事は肉体的だけでなく、精神面も気を遣うことであろう。
その疲れが週末に溜まって、映画を観るだけの余裕が彼女には無かったんだ。
私は彼女を振り回し、自分勝手な行動だったと助手席で静かに眠る彼女を見つめて反省をした。
私のペースに合わせてくれる彼女の寝顔を、楽しみにしていた映画も観ないでずっと眺めていた。
そして、映画も終盤に差し掛かった時、彼女は目を覚まし私の視線に気付いた。
「いやだー!!! 恥ずかしいからそんなに見ないで!」
寝起きの彼女は顔を両手で覆い隠し、恥ずかしそうに頭を左右に振っていた。
その愛くるしい姿を私は見つめずには居られなかった。
「だって無防備に寝てんだもん♪」
そう言って私は彼女の居る助手席へ身を乗り出して、彼女の背中へ手を回して優しく肩を抱きしめた。
お互いの顔と顔が接近した状態になり、そして彼女は両手を扉のように開いて私を見つめた。
「Y美ちゃん!・・・好きだよ」
私はゆっくりと彼女の元へ顔を近づけて行くと彼女は瞳を閉じた姿勢になり、そして彼女と私の唇が触れ合った。
映画の音声だけが車内に流れていたが、その事を気にすることなく二人は抱き合った。
私の心は彼女の優しさで満たされることを実感しながら、そして二人の時間は始まってしまったんだ。
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