十六歩目~斜陽と迎えた春~

 美弥が顔をあげて口を開いた。

「文也とは友達がいいな、って」

 僕は無意識に唇を噛んでいた。

「全然、嫌いなわけじゃないよ?」

 分かっている。嫌いじゃないが故の友達という関係性なのだ。

 それは仕方のないことだ。良くも悪くも僕と美弥は友達という関係性なのだ。

「そっか……。じゃあ友達としてよろしく」

「うん、よろしくお願いします」

 きっと明日は言葉を交わさないだろう。明後日も交わせないだろう。いつになったら今日のことが笑い話にできるだろうか。いつになったらこの気持ちは過去のものになるのだろうか。

 分からない。分かりたくもない。

 でも、いつかは……。何度もセミの鳴く夏が過ぎて、何度も雪の降る冬が過ぎて、僕の元に春はやってくるはずだ。そうしたらもう一度美弥と笑って喋れないだろうか。

 教室の外ではミンミンゼミが力強くでも儚く鳴いていた。

 

 

 

 

 

 

「そろそろ酔いが大喝采」

「呑めば治るって」

 あの夏から5年が経った。春は来た。

「呑んだら酔い醒める酔い?」

「そりゃそうだよ」

 隣に座った美弥にそう言われ、僕は缶に入ったチューハイをおぼつかない手で開ける。

「ほら瞬太と梅葉ちゃんもお」

「私はもう無理い」

「俺、余裕だわ」

 そう言って瞬太がビールを開ける。さすがに呑みすぎだろ。

「でもぉまさか、この6人でお酒呑むようになるなんてねえぇ」

 酔って妙なテンションになった梅葉が、とっくに酔いつぶれている筧と音色を見ながら言った。

 そう。あれから5年が経ち、ここのいる6人は付き合っている同士になり、ダブルデートならぬトリプル飲み会になったのだ。

「こいつら仲良しすぎだろ、2人揃ってつぶれるとか」

「仲良しなのは君たちもだよ?瞬太くん」

「……ぷはーっ」

 呑んで誤魔化した瞬太に美弥が攻勢をかける。

「ほらもっと呑みなって」

 美弥はどうやらお酒に強いようだ。瞬太がこれで酔うとして、まともなのは美弥だけになる。

 いやすでに全員まともじゃない説はある。

「っていうかぁ。なんで美弥ちゃんは文也と付き合ったの?」

「その言い方はとげがありけり」

「カッコよさに気づいちゃった」

 ……。チューハイじゃ足りない!

「チューハイのビール!」

「それはもはや何言ってんのか分からねえ」

 そう言いつつ缶ビールを僕の元に持ってきてくれる瞬太。さすがっす。

「くはぁ~!」

「あれっ梅葉ちゃんがつぶれちゃった!」

 本当だ。するめいか片手に突っ伏している。

「じゃあ瞬太もつぶれてください」

 僕は瞬太の前につまみを集める。同時にビールも。

 わずか5分で瞬太はつぶれた。

「酔いが回ったら早かったね~」

 美弥がいつの間に冷蔵庫から出してきたのかモンブランを食べながら瞬太を見た。

「俺らもつぶれる?」

「そうしよっか~」

 一切使われることなくテーブルの端に置かれていたジョッキを出して、ビールを注ぐ。

『かんぱ~い』

 まったく最高に最高な人生だよ。

「あれ?美弥?」

 ボーッと見ていた時計から美弥へと目を動かすと美弥がつぶれていた。

「なーんてねっ。私まだまだ呑めるよ?」

「一緒につぶれるなんて無理だわ」

「えぇーひどい」

「分かったよ」

「はい、じゃあこれね」

 そう言って美弥が僕の前に置いたのは泡盛だった。終わった……。


───────

《あとがき》

 これにて小説『恋愛階段』の本編は終了となります!最後までお付き合いいただきありがとうございました!!

 次回はスピンオフというか番外編というかそういう類のものを投稿致しますので、あと少しお楽しみください!!

 そして9月以降は新たなシリーズを投稿する予定ですのでお楽しみに!!

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