番外編~文也の被告白~

 それは突然に訪れた。

 朝、学校に来て、靴を靴箱に入れようとすると微かな抵抗を感じた。靴を一旦とりだし、靴箱の中を見ると白い封筒。4:3みたいな封筒だ。思わず周りを見渡してから封筒の裏を見る。“寺末くんへ”と書かれている。どうやら入れ間違いではないようだ。僕の靴箱の隣がクラス1のイケメンの靴箱だから入れ間違いの可能性すらあった。

 急いで教室に向かい、本を読むふりをして本の内側で便箋の内容に目を通す。

 

 寺末先輩へ。

 突然すみません。

 今日、18時半に1階の階段裏に来てください。

            ○○。

 

 うちの学校には1階の階段の裏が謎のスペースになっている。これは……告白?いやいやでも待て待て。17年間1度も無かったことがこんな突然になんの前触れもなくあるはずがあるだろうか。

 僕は疑心暗鬼になりながらその日授業の後、書かれていたとおり階段下に向かった。

 彼女はすでに来ていた。

「あの……!!」

「はい」

 思わず背筋を伸ばし、かしこまった返事をすると、彼女は「そんな緊張しないでくださいよ」とクスッと笑った。ショートカットの髪がさらさらと揺れる。

 窓から夕日が差し込み彼女を照らし出す。

「実は……」

 今度は彼女の背筋が伸び、表情もこころなしか硬くなっているように感じる。

「前から寺末先輩のことが好きでした!」

 おっ……?

 思いがけないことすぎて声が出なくなる。

「付き合ってくれません……か?」

 彼女は確かに可愛いし、器用で性格も良い。人の機微を察することもできる。

 でも……。僕の頭には美弥の顔が浮かんでくる。

「……」

 そしてこういうときはバッサリと振ってしまった方が両者ともに楽だろうということをこれまでフラれたことから知っている。

「ごめん。君を恋愛対象としては見れていないんだ」

 一瞬、彼女が泣きそうな顔になる。

「でも、友達としては大事な人の1人だから。欲張りかもしれないけど友達としてお願いできないかな」

「全然欲張りなんかじゃないよ」

 気を張っていることがまるわかりな表情にもかかわらず、無理に微笑んだ彼女は「ありがとう」と呟いて部室の方に去っていった。

 悲しみを振り払うかのように走っていく彼女の背中に向かって静かに呟く。

「ごめん……」

 この返事があっていたのかなんて分からない。何しろ告白されたのは今回が初めてなのだから。

 でも僕が返せる答えはこれが限界だったと思う。

 そう考えると前に僕が告白した2人も悩みながら返事してくれていたのかもしれない。僕は少し申し訳ない気分になった。

 でもきっと「しなかった後悔よりして失敗した後悔」の方が絶対にいいはずだ。過去の自分を認めるように僕はそう思った。

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