十五歩目~狭間~

「好きなんだよね」

 まっすぐ美弥の目を見て、僕は言った。

「う、うん……」

「これから先、良いことも悪いこともあると思うけど、一緒に乗り越えていきたいな、って。だから……付き合ってください」

 そう言って、頭を下げる。

「……全然知らなかった」

 そうだったんだ。もう察されてるのかと思っていたよ。

「別に今すぐに返事しろってわけじゃないから」

「じゃあそうさせてもらうね」

 僕は頷き、その場を離れた。

 

 

 

 

 その週末。本を買いに行こうと大通りに出た僕は、反対側の道に美弥らしき姿を見かけた。普段、友達を見かけてもわざわざ声を掛けに行くことはないけど……。僕は横断歩道を渡り、声を掛ける。

「ういっす」

「わ~、やっほー」

 本当はいけないんだろうけど、並列で歩道を進む。歩道が広いから……うん。

「どこ行くん?」

「本屋さん」

「おお」

「推してる作家さんの新刊が出たから~」

 本屋までは500mくらいなものだ。

「なるほどね」

「文也は?」

「俺も本屋なんだよね」

「え偶然じゃん、すごい」

「本読み終わったからと思って出てきたらこうなった」

 僕は願う。信号よ赤になれ。

「あ、赤」

 僕らは自転車のブレーキをかけ、止まる。

「そういえば高校って決めた?」

「いや~悩み中。美弥は?」

 いつの間にかそんな時期か。

「一応、中央高に行こうかなって」

 そう言って美弥が出した高校は県下でトップクラスの偏差値を誇る高校だった。

「美弥ならいけそうだね」

「文也だっていけるんじゃない?」

 まあ、謙遜しても馬鹿ではないくらいの成績ではある。

「いけなくはないかも」

「いけるって。私──」

 そこまで言ったところで、信号が青になったので進み出す。

「私よりテストいいじゃん」

 それは美弥さん、

「たまたまですよ」

「そうかな~」

「あとは運」

「同じじゃん」

「同じだったわ」

 と、他愛もない話を続け、店内に入った。

 

 

 

 

 あれから数日。放課後の教室で一緒に喋っていた瞬太が教室を出て行った。

「寺末はそこで待ってて」

 瞬太のその言葉で僕は察した。慌てて髪を手櫛でとき、それでいて何も無いかのように平然と教科書を読むふりをした。

 扉の開く音。僕は振り向く。

「ういっす」

 立ち上がり、美弥のもとへ歩く。

「あれからめっちゃ考えて……」

 俯いた美弥とは対照的に僕はまっすぐ美弥を見つめた。

 どんな返事でも覚悟はできてる。嫌われたっていい。もちろん良い返事がもらえるに越したことはない。でも、告白をするということは、ある程度のリスクは承知の上だ。むしろ、告白をすれば今までのようにはいかなくなる可能性が高い。他愛もないことを話し、他愛もないことで笑い、そんな日々はもう訪れないかもしれない。そんなこと、とっくに分かっている。

 僕は覚悟を決めているんだ。

「」

 美弥が顔をあげて口を開いた。

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