十四歩目~死からの逆算~

ミーン……ミーン……ミーンミーンミーンミーンミンミンミンミンミンミン……。

 セミが必死に命を燃やしている。

 地上で生きられる期間はわずか1週間。1週間ひたすらに羽を震わせ、力の限りをつくし、生の限界までゆく。そんな全力の日々も一瞬にして終わってしまう。

 

 セミを見る度に考える。生きる意味とは何か。「どんな生物であれ種をつなぐために生きるのだ」と主張する人もいる。それも一理ある。しかし、命をつなぐため“だけ”ではないだろう。何故なら僕ら人間は命をつないでからも40年以上生きるのだから。

 なら逆から考えてみよう。最終的には誰しもが皆、朽ち果てていく。セミと比較して比べてみると、命の灯火が消える直前の行動が、人が生きる上で成し遂げなければならないことなのかもしれない。

 死の間際に僕は何をしていたいだろうか。

 

 

 

 

 

 

 僕は……。一生を宝物にしたい。

 

 

「……」

 時計を見ると朝の4時3分。なんともまあ微妙な時間に起きたものだ。

 連日猛暑日といえども朝の4時台はやや涼しい。まだ温暖化を食い止めることはできるだろうか。

 そういえば妙な夢を見たな。

「一生を宝物に……か」

 誰か知らんけど夢の中のやつ、いいこと言うやん。

 よし……。

 死ぬ直前になって「ああしておけば」「こうしておけば良かった」なんて言う人生はまっぴらごめんだよ。

 もしかしたら、叶わないかもしれない。いや、叶わない可能性の方がおそらく高い。下手すると避けられるようになるかもしれない。もしかしたら「面白いよね」という発言も取り繕ったお世辞かもしれない。打ち明けたら困った表情をするかもしれない。

 でも、そんなことやってみなきゃ分からないよね。

 もしかしたら、笑顔で頷いてくれるかもしれない。もしかしたら心からの友達になれるかもしれない。

 僕は決めた。後悔の無い人生を歩むんだ!!

 

 

 

 

 

 数週間、僕は考えに考えた。そしてできるだけやることはやった。できるだけ話しかけるようにしたし、僕らしくもなくカッコつけようなんて思ったりもした。友達に協力してもらって少し匂わせもした。

 

 

 

 

 そして……。

「あ、あのさ」

 僕は前を歩く美弥を呼び止める。

「ん?」

「放課後さ、ちょっと残っといてくれない?」

 美弥は振り向いて……。

「いいよ~」

 頷いた。

「ちょっくら話がね。そんなにはかからないと思う」

「りょうか~い」

 もしかして察してる?

 

 

 

「ういっす」

 教室はたった今、僕と美弥だけになった。

 西日も差さないし、雪も降っていないし、サッカー部の声が響く、ロマンチックさとはかけ離れているけど、場所のせいになんかできない。

「話って言ってたけどさ」

「うん、何?」

「実はさ……美弥のことが」

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