十三歩目~吐露~
「また近いやん」
「本当だね~!」
席替えの直後、僕が声をかけた相手は美弥だ。席が近くなるのはこれで3度連続、すなわち3ヶ月弱もの間、平日のほとんどの時間で美弥の近くにいるのだ。
「これはチャンスだ!」と思う改進派と、「同じ轍は踏むな!」と叫ぶ保守派で意見が分裂しているが、好きな人が近くの席になる確率はとても低いと思っているので(恐らく物欲センサー的ななにかが働いている)、まあチャンスだと思っている。
そんなある日。美弥が何気なく言った言葉に僕は動揺した。
「文也っておもしろいよね」
もちろん、動揺は必死に隠した。
「あざすあざす」
僕は基本的に持ち上げられると弱い。お世辞は通用しないが。美弥の言葉の場合、変に修飾語が付いていないし、第一にもしお世辞だったとしても好きな人からの言葉であれば舞い上がってしまうのは、必然だろう。
そしてこの瞬間、僕の中の保守派は消え去った。
しかし、よくよく考えると、実際のところどうすればいいんだ、という問題がある。
仮に今、告白してokを貰えるだろうか?今の僕の立場はせいぜい「ちょっと面白い男子」くらいなものだと思う。恐らく「友達がいい」と言われて一巻の終わりだ。
誰かに根回ししてもらって向こうを意識させるとか?いや恐らく、誰かに言ってしまうとよりこの想いは燃え上がり、早まって告白をするだろう。
だからと言って、告白をしないという選択肢は無い。伝えなければ何も始まらないんだ。
そんなこんなで僕はこの想いを静かに秘めつづけた。でも……限界だった。
「モテ期欲しくね?」
学校帰り瞬太がそう言った。
「僕は1人と結ばれればそれでいいけどね」
彼女持ちである瞬太を少々皮肉った発言だった。
「まあ、それはな。でもモテるっていいやん」
でも効果は無かった。
あなたは彼女がいるでしょ!彼女がいることがどれだけ幸せで稀で嬉しいことなのか分かっているのか!彼女がいて何故モテたがる!たった1人の彼女を大切にしろよ!
という言葉は飲み込んで僕は静かに言った。
「いや、あなたは彼女がいるでしょ」
「なんかさ、優越感みたいな?」
ここまで素直に感情を吐露されると、そこまで僕は信用されているのだろうか、と一瞬思ってしまう。でも、沸々と怒りは湧き上がってきた。
「あのさあ……」
それからのことはあまり覚えていない。ただ覚えているのは……。
「え、お前いつの間に好きな人変わってたん?」
という瞬太の言葉だけだ。やっちまった。
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