十歩目~封印と嫉妬~
僕の初恋は終わったのだ。大丈夫、瞬太ならきっと梅葉のことを大切にしてくれる。
それに……。周りの恋愛話を聞く限りでは長いカップルでも2、3年だ。それまでこの気持ちは封印しておこうじゃないか。
どうせ、今あがいたところで何も変わるまい。それならいっそ、梅葉への恋心など忘れてしまおう。その間にこの片想いが進展するなり、諦めきれるなりすれば儲けものだ。
そう思いながら、僕は自分の気持ちにそっと蓋をした。暑い暑い夏の夜のことだった。
「ちゃんと、デートとか行ってる?」
夏休み中盤の登校日。その帰り僕は茶化し半分、様子見半分で聞いてみた。すると瞬太は少し苦い顔をした後言った。
「それ、女子からも言われたよ……。けどぶっちゃけ行ってないのが事実なんだよな」
へえ。少し安堵する悪い顔の自分がいる。
「けど、付き合ってなにするってデートでしょ」
「まあなー……。ただ向こうがデートしたいか分からねえやん」
僕は梅葉を頭に浮かべる。
「いやー、梅葉は奥手なだけで実はそういうの求めてるのかもよ」
勝手な勘である。ただ、当たりそうな予感もする。
というか、言ってしまえばそういうことが嫌いな人というのは、食わず嫌い的なことか、もしくは過去に恋愛関係で苦い経験をしたことがある人だと思う。まあ、人間としてというより生物として、なんだろうけど。
「けどそれでめちゃくちゃ肉食なんだって思われたらちょっと微妙じゃない?」
「え、肉食じゃないの」
「バカ言え。俺はアスパラベーコンだ」
あ、ぱっと見は肉食に見える、という点は認めるんですね。
「あーけど結婚願望ないから、そういうものか」
「あと、デート以降のステップはちょっと……」
「分かる、ちょっと抵抗あるよね」
って何の話をしているんだ。
「まあ付き合って1ヶ月も経ってないしな。そういうものじゃないか?」
「けどさ、2学期始まったらデートとか行く暇なくなるんじゃない?」
「まあ、その時はその時に考えるさ」
楽観的だなぁ……。また、悪い顔をした自分がやってくる。このまま自然消滅……なんてね。
「自然消滅したりして」
「無くはない」
いや真面目な顔して言うことじゃないから。もう少しあなたは彼氏としての自覚を持ってください。
「もし自然消滅したら猛アプローチするわ」
「頑張れ」
くそ……。冗談だと思ってやがる。ただ、どうしようもないのも事実だしな。どうしたものか。
「で、結局デートは行ったの?」
「映画見に行った」
「そろそろ行かないと──マジ?」
悪い顔した自分が焦っているのが分かる。そのままお前は消えてくれ。
「向こうが楽しかったかどうかは分からんが……」
「まあそのうち分かるでしょ」
「デートが楽しくなかったからってふられたら俺、泣くぜ?」
「さすがにふられはしないでしょ。デートの誘いを断られるようになるだけだって」
「付き合っている意味」
おっとぉ、アスパラベーコンと思わせておいてからのロールキャベツみか?
まあ、幸せならそれで。瞬太というより梅葉が、の話だけど。
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