九歩目~結ばれる想い~
僕の不安と焦り、そして苦悩をよそに、日々は何一つ変わらずに過ぎていった。あれから瞬太が告白したという話も聞かない。
そうして、一学期最終日がやってきた。今日さえ乗り切れば……。そんな他人任せな考えを持ちながらいつもより少し長い校長先生の話を聞く。
「結局、どうするの?」
「そこなんだよなー……」
放課後、教室の前で壁に背を預けながら瞬太と話す。
「けど、避けられなくない?」
「ぶっちゃけさ俺、結婚願望無いんだよ。だから、人と付き合ってもな、っていう」
なんですと!確かに人を好きになることは理屈ではないとはいえ……。
「だからなんとかスルーできないかな、って」
「だったらさささーっと校舎出ちゃったら?」
「逃げ腰すぎるだろ。しないならしないでちゃんと解決しないと」
おいおい、そんなだからモテるんだろうが。
「なるほどね……」
「そんなわけでちょっと言いに行ってくるわ」
そう言って、瞬太は自分のクラスの方へ向かった。僕は夏らしい深く澄んだ青空を見上げる。
数十秒後。
「ちょっと梅葉ちゃん呼んでくるね!!」
「いやちょっと待てって」
そんな会話が聞こえてきて、女子がうちのクラスへと入っていった。あの人がきっと瞬太に勝負を挑んだ人物なのだろうな、と思う。そしてふと気づく。今から告白……?
それからの僕は行動が早かった。まず、荷物をまとめ、瞬太に「下で待っとくわ」そう言い残す。そして、瞬太の制止をも振り切って廊下を走り、階段を駆け下りて生徒玄関に辿り着く。そこで少しの間息を整えて、水を飲む……。
「ぷはあっ」
さすがに人の告白シーンに立ち会うのは気が引ける。……そう言えば一年半前、がっつりギャラリーがいたな……。
……。けど、もしこれで瞬太と梅葉が付き合いだしたらどうしよう。いや“もし”じゃないよな、この感じだと。僕はこの恋を諦めることができるのだろうか……。諦めきれなかったら……勝手に人のことを羨み嫉妬し、恨む、とてつもなくひどい人間になってしまうのではなかろうか……。
いつの間にか山の方から現れた入道雲に比例するほどの不安を抱きながら、僕は瞬太を待つ。
頼むから……。もし二人が付き合うのならば、僕にこの恋を諦めさせてくれ……。
どれほどの時間が経っただろうか。長かったのか短かったのかすら分からないが、瞬太がやってきた。
「お待たせ」
相も変わらずのポーカーフェイスだ。
僕はさすがに気になって、駐輪場に向かいながら聞く。
「……どうだった?」
「……」
「聞かなかった方が良かった感じ……?」
「『考えさせて』だってさ」
「え……」
てっきり、落ち込んでいると見せかけてOK貰いました、的な雰囲気だと思ったのだが違ったようだ。
「ってことは、前に言ってた『告白されたら付き合う』っていうのは……」
「でっち上げだったってことだな」
瞬太は頷いた。
半月後。夏休み中の全校登校日の放課後。付き合い始めたと報告を受けた。もう覚悟はできていたからすんなりと祝福できたのは良かった。
しかし、諦められたかというとまだ言いきれない……。
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