七歩目~架かった橋~
二学期も半分が過ぎようとしたある日の放課後。いつものように家の前で喋ろうと瞬太と自転車を漕いでいると、瞬太が突然自転車のペダルから足を離した。
「ん?」
僕もブレーキをかけて瞬太の横に自転車を止める。
「俺の好きな人は誰でしょう」
「はい?」
そりゃ誰でもこんな反応をするだろう。そう言えば瞬太の仲良くなって半年以上経つが、僕はこの人のことを全然知らないな、とふと気づく。
「見当もつかないね。というかそもそもいるんだ」
願望ならあるが……。梅葉ではありませんように、という。
「当ててもいいぜ」
「あなたは顔ステが上手いから」
「ポーカーフェイスな。某音楽番組みたいに言うなや」
そう、それだよ、ポーカーフェイス。
「まあ、けどそんなわけで僕に当てることは不可能です」
「そんなこと言わずに」
……ならばちょっとやってみるか。
「この学年?」
瞬太は少し悩む素振りを見せる。
「まあ、そうだな」
いや確実にそうだろ、と思いつつも次の質問に行く。
「うちのクラス?」
ちなみに、僕と瞬太は同じクラス、梅葉は別のクラスだ。
「……」
ん?なんで黙り込んだ?
「……いいえ」
「……」
今度はこっちが黙り込む番だ。
「どうした?」
一切の表情を崩さずに瞬太が聞いてくる。もう少しポーカーフェイスが下手な人なら、そして僕が心理戦に強ければ、この聞き方一つで分かりそうなものだが……。
「言ってもいい?」
もうここまで来たら聞かずには帰られない。
「お、もう当てちゃう?」
……。僕は深く息を吸い込んで言った。
「瞬太が好きなのは……梅葉」
頼む……。
首を振ってくれ……。
“違うな、残念”って。そう言ってくれ……。
「さあな~」
「……た、助かった……」
「まあ、頑張れ」
この反応……。伊達に半年間放課後になる度に喋ってるわけじゃないんだ。
瞬太は違うときはもっと溜めてから「さあ?」とはぐらかすのだ。もしくは普通に否定するか、冗談めかして言う。
ただ今日は、そのどれにも当てはまらなかった。答えるのも早かったし、否定の“ひ”の字すら無かった。それに表情は真剣だった。
梅葉が瞬太のことを好きであることは言っていない、というより言えていない。言うことでこの二人が結ばれることを恐れているのだ、僕は。本当なら、自分の恋心など無かったことにして、両想いである二人に早く結ばれてもらい、祝福するのが友として当然のことであるはずだ。
それでも……。言えない。そんなにすっと諦めきれるような淡い想いなら、友を応援できるような軽い想いなら、片想いなんかしていないしましてや告白なんてしていない。
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