六歩目~繋がるピース~

 梅葉と音色からバレンタインの贈り物を貰ってから三ヶ月強。その理由が……分かってしまった。

 

 

 

 今日は、中学生になって最初の体育大会だ。他の中学校に行ってしまった音色も見にくるんだとか。

 号砲が鳴り響き、薄い薄い煙が一筋空にのびる。狼煙にするには二百発は必要そうだ……。

「お、最初は百メートル走か」

 各団のテントで斜め前にいた瞬太がそう言って立ち上がる。

「寺末もじゃなかったか?」

「いや、僕は障害物競争」

「そっか、んじゃまあ行ってくるわ」

「いってら~」

 僕は瞬太を送り出して水筒に入ったお茶を飲む。ぬるい……。そういえば昨夜の天気予報で最高気温が三十度近くになるとか言っていたな……。夏やん。

「ぃよぉ~い……」

 バンッ!

 おっ、きたきた瞬太の番だ。……速すぎない?これだから身長が高いやつは……羨ましいぜ。

 

 とはいえども我が団の快進撃はわずか第一種目までで、学級対抗リレーは練習の時の結果を覆せずビリ。他学年も余裕で負けつづけ、昼休みに入った段階でダントツのビリだった。

「これは終わったくない?」

 汗を拭きながら瞬太に言うと「ああ間違いないな」と僕のことを横目で見ながら言った。

「いやあれは運ゲーやんっ」

 実は、午前中の障害物競争でクジをとことん外しまくりその結果僕はビリになっていたのだ。

「まあ、そうとも言う。運が悪かったんだな」

「うぅむ……。その言い方もちょっとナメられてる感があるよな……」

「じゃあ寺末のせいってことで」

「ド直球!!」

 とまあそんな会話を交わしながら昼食を摂った。

「ちょっと音色探しに行ってみるわ」

 僕はそう瞬太に声を掛け、立ち上がった。

 数分歩いて暑いし教室に戻ろうかと思った時、後ろから声を掛けられた。

「文也?あっ文也だ」

「おお、ういっす」

 振り返ると音色は突然「ちょっと来て!!」と言って建物の陰に僕を連れ込んだ。なんだなんだ?

「あのさ……」

「はあ」

「絶対に梅葉ちゃんと結ばれなさいよ!!」

 はいいいいいいいい?なんでそんな突然に!?

「な、何故……?」

 すると音色は暑いのか赤くなった顔で言った。

「実はね……ここだけの秘密なんだけど私、瞬太のこと好きなんだよね」

 ほ、ほう……。顔が赤いのは照れているからか。でも……。

「それと何か関係が……」

「……瞬太のことを好きな人がもう一人いて。それが……梅葉ちゃんなの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マジで?」

 長い長い沈黙のあと僕はようやく声を絞り出した。

「嘘はつかないよ」

 と、いうことは……。三ヶ月前、梅葉と音色が瞬太と僕を誘ったのも、バレンタインチョコをくれたのも、本命である瞬太と近づきたいが故……?で、さすがに男子一人の女子二人だと気まずいだろうから、ということでそこそこ仲の良い僕もセットで呼ばれた……。

 いくら梅葉が僕に恋心を抱いていないことが分かりきった事実だったとはいえどもいざ事実だったと知るとかなりショックだ……。

 

 昼休みが終わり、応援席に戻っても暗い表情が見て取れたのか、瞬太が夕方になって聞いてきた。

 最近は毎日放課後、僕の家の前で喋ることがルーティーンと化している。

「なんか午後から落ち込んでたっぽかったが……音色と会ったときに何かあったのか?……ひょっとして……梅葉関係?」

 鋭すぎやしないか。

「まあ、そんなとこ……」

 ただ、この事実を瞬太に伝えることは……できない。というよりしたくない……。

「まああまり掘り下げないでおくか」

「ありがたい」

 我ながら自己中心的だな。どうせ事態が好転することはないのに。

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