第7話 『お弁当』

 パパがあゆを釣る間に僕は山のさちを集めまくった。

 のんびりレジャーの渓流釣けいりゅうつりが一転、大忙しだ。


あきら、ママも手伝おうか?」

「いいから火を見てて」

「ゴメンね本当。ママ、つくづく思った。怖いわあ歳を取るって」


 テント場の隅で焼いた平たい石に、パパが鮎をせた。

 ジュワッ! と良い音がした。

 僕はその脇でノビルの球根を焼くことにした。

 タラの芽とウルイはいため物、ボウナとイタドリは汁物、ヤマドリタケモドキはでて刺身にする。

 ごめんねパパ、とママが手を合わせた。


「私がお弁当を家に忘れたせいで」

「気にするなよ」


 パパは満面の笑みだった。


「こんな時こそ男の出番。キャンプできたえた腕の見せ所さ。なあ晶」

「塩と味噌は常備してるしね」


 と、こたえる僕は知っていた。

 お弁当と言っても市販のおにぎりに過ぎないということを。

 ママはパパの手際てぎわの良さをしきりとめながらローチェアに座ってビールを飲み始めた。

 僕もつくづく思った。怖いなあ女の人って。

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