第3話 『特別な一日』

 わあ!

 なんて暖かい部屋!

 鉄のストーブが立派!

 テーブルは大きいし、テーブルクロスは真っ白だし、器やお皿はピッカピカ!

 蝋燭ろうそくを立てた銀の燭台しょくだいも、ああ、見たことがないくらい綺麗だわ。

 それにご馳走もたくさん。

 あっちはハムをたっぷりのせたスモーブロー。

 こっちはピクルスを添えたフリカデーラ。

 そっちはリンゴとプラムを詰めた鵞鳥がちょうの丸焼きね。


 ああ、幸せ。

 思いもしなかった。

 年の終わりの一日を、こんな素敵なものに囲まれて過ごせるなんて。


 壁の大きなひび割れにわらをねじ込んだ暗い部屋で、膝を抱えて震えていなくても済むなんて。


 よそのおうちからの冷たいがり物を、野良犬みたいに食べなくても済むなんて。


 何よりここには、私を怒鳴りつけるお父さんがいない。


 それだけでもう最高に……、あ。





 消えちゃった。



 さむい。




 もういっぽん、マッチを、すってみよう……。

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