第2話 『人形の秘密』



 金太郎きんたろう動いた、と幼い娘が台所の私にすがりついてきた。

 確かに、とこに異変があった。

 クリアケースの中、まさかりかついで見得みえを切った金太郎の、ちゅうに突き出した左腕がポッキリ折れている。

 夫の会社から電話がかかってきたのはその少し後だった。


 青くなってけ付けた私に、病室の夫はベッドから苦笑いを返した。

「軽いかすり傷だよ」

 左腕の包帯が痛々しい。

 交差点で、彼の営業車に信号無視のトラックが突っ込んできたという。軽傷で済んだのは奇跡だった。


 金太郎のことを話すと、夫は目に涙を浮かべた。

「俺を守って身代わりになってくれたのかな」

 彼が生まれたときに父方の祖父母から贈られた内飾うちかざりの五月人形。

 それがあの金太郎なのだった。


 次の連休、私たちは墓参りのために夫の故郷をたずねる。

 金太郎には新たにキンタという愛称がさずけられた。

 今は修理という名の治療を受けているキンタのため、床の間は空っぽのまま、何も置いたりはしていない。

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