カンプピストーレと繰術 その4
周りの人には、私が瞬間移動した様に見えたかもしれない。
分厚い鉄板が仕込んであるブーツの踵が、相手の背面にめり込む。
大男は、息もできないまま数メートル吹っ飛び、そのまま廃屋に体を打ち付けて、気絶した。
全く、予想外の展開だったのだろう。男達は、状況が飲み込めず、ただただ目を丸くして驚いてる。颯輝もだ。
「う、嘘だろ?!……あの巨体をぶっ飛ばすなんてよ、一体どんな魔法を使ったんだ!!」
「それより、な、なんか今、身体光ってなかったか?」
魔法ねえ……まあ、普通ならそう思うわよね。
でも違うわ。私は魔法を一切使用していない。
むしろ私は、訳あって魔法を一切使うことは出来ないのよね。だから、蹴飛ばしたわけ。
「よしっ、狙い通り!」
ガッツポーズをとる。
「どんなものよ?女子だからって甘く見てるとひどい目に合うのよ?」
多勢に無勢で、恐らく男達が優勢と思い込んでいる状況を、蹴りの一発でひっくり返してみせて、ちょっとだけ優越感に浸っていた。
しかし、この状況の中で颯輝だけが、必死の形相でこっちに向かって走ってくる。
えっ?何?!
「イブっ!上だよっ!!」
ムーが叫んだ。
目をやると、建物の上に人影があった。その方向からは、複数の氷の刃が、今まさにこちら目掛けて飛んで来ている。
氷の魔法?!……迂闊だったわ!あんな所に伏兵が潜んでいたなんて!
「危ねえっ!」
私を庇おうと、颯輝が飛び込んで来る。そして、勢いよく突き飛ばされる私。
まずい。このままだと、颯輝に氷の刃が直撃してしまうわ。刃の大きさから考えて、当たれば致命傷だ。
「馬鹿!何やってんの!」
私は、咄嗟に颯輝を振り払った。……私1人だけなら何とかなったのに、こいつはっ!
ムーが慌てて、防御系の魔法壁≪シールド≫を張ってくれたお陰で、氷の刃の数はかなり少なくなった。
だが、不意をつかれ、防ぎきれなかった氷の刃が流れ弾となり、私の左肩に突き刺さる。
もう一本の氷の刃は、颯輝の右腕に当たったかの様に見えたのだが、寸前で消えて無くなってしまった。
……今のは何なの?!
ドサッ!!
2人は倒れ込む。
私は、上手く急所を避けた。颯輝においては……ん?無傷?
はああっ?何よ!無傷って!!
私は、肩を押さえ、ゆっくり立ち上がる。傷口から血が滲み、遅れて鋭い痛みが襲って来た。
「イブっ!」
「おい……!お前、大丈夫かっ?!」
2人が心配し声を掛ける。
ムー、ありがとうね。……でも、颯輝。あんたに心配されると、無性に腹が立つわ。
痛みも相まって、凄くイライラする!
「ああ、もうっ!見ての通りよ!あんたには、山ほど言いたいことががあるんだけど、後回しっ!これ、ひとつ貸しだからねっ!」
颯輝はムッとしていたが、無視した。
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