カンプピストーレと繰術 その5
私は左肩を押さえながら、建物の上を睨む。だが、人影は無い。
……成る程?さっき氷の魔法を飛ばして来た奴は、既に身を隠して移動を始めた様だ。
「逃がすものですかっ!ムー!相手を見失わない様に見張ってて!」
「分かったよ!イブ!」
「深追いはしないで良いからねっ!」
ムーはフワフワと飛び立ち、魔法使いを追跡し始めた。
「さてと……?もう遊びは終わりよあんた達。私、いい加減に腹が立ってきたわ」
私は、再び男達を見据えた。
そして、腰のホルスターに右手を掛ける。そこには“あるモノ“が納めてあるのだ。
相手は7人。バラついてはいるけども、十分有効圏内。周囲は燃えやすい建物。こんな所で、ぼや騒ぎなんか起きたら後々面倒そうね。
……だったら、氷系か。
腰のホルスターから、取り出したのは、青いカートリッジ一個と、“カンプフピストーレ“。
拳銃型のてき弾発射器だ。
この拳銃は、少しだけ機構が変っていて、カートリッジを銃口から装填しなければならない。
男達は、一体何が出てくるのかと身構えていたが、出てきたものが何かとわかった途端に、肩を震わせて笑い始めた。
「ギャハハハハ!!んだあ?そのオモチャは?!超骨董品のガラクタじゃねえかよ。そんなのじゃ、魔法壁が突破できねえどころか、当たりもしないんじゃねえのか??」
皆、口々に罵り、馬鹿にしてくる。
確かに、男達の反応はある意味正しい。何故なら、戦闘において魔法が主流のこの時代では、この代物はオモチャ同然だからだ。
感覚的には……そうね。丸めた紙屑を投げつけるくらい?
ムーがさっき使った様に、対防御魔法として、魔法壁というものがある。
これが、中々優秀なもので、発動の早さと堅牢さが上手く噛み合っていており、1番目の防御として選ばれやすい。
通常、魔法戦闘と言えば、如何にこの魔法壁を突破して相手にダメージを与えるかが、戦略を立てる上で重要になってくるのだ。
今時、鉄の弾を火薬で撃ち出す銃火器は、魔法壁で簡単に弾かれてしまう上、攻撃の内容も単調で読まれやすい。加えて重たいし、持ち歩きに不便だし、出した瞬間に見た目で攻撃方法がバレてしまうので誰も使わなくなった。
銃を持つのは、魔法の能力低いものが護身用に使うくらいだ。しかし、そんな事なら初めから防衛手段そしての魔法壁を取得するべきだという考え方が、一般的な考えとして浸透しているのだ。
つまり、銃は持っているとそれだけで馬鹿にされやすいということ!
でも、この“カンプピストーレ“は弾が特別製なのよ。ね?何か知りたいでしょう?
“魔てき弾“
高濃度に圧縮された魔力がカートリッジ内に込められている。魔法の種類や属性も、弾ごとに選ぶ事が出来る仕様なので、戦術が組み立てやすい。魔法を使えない私にとっては、これが唯一魔法を使用する手段である。
悪い所は、連射が出来ないこと。弾の速度が遅いこと。範囲が狭く限られること。
良い所は、詠唱の時間が必要無いこと。魔法エネルギーが、高密度に圧縮されているので一発の威力が高いことだ。
魔法壁?もちろん、このカートリッジの中には魔法壁破壊機構も組み込まれている。
まさか、魔法壁を突破できる銃があるなんて、普通誰も思わないはずだ。
ふふふ、そうやって余裕をかましていたらいいわ。そのアホ面に、つめたーいのを容赦なくぶちかましてあげるわよ!
でも、そうね。それだけじゃ物足りないから、心理的に1発かましておこうかしら?
私は、狙いを定め、撃鉄を起こす。そして、相手の嘲笑など気にせずに言い放った。
「あんた達?ファングの弟子にちょっかい出すとどうなるか、その身をもって学びなさいよね!」
さっきまで笑っていた男達の内、何人かが、“ファング”という名詞に反応し、即座にギクリとした顔に早変わりした。
「ふぁっ?!……や、やべえぞ!ファングってあの、伝説級のバケモノじゃねか!!」
「どうせハッタリだろ!つくならもう少しまともな嘘をつけっ!」
効果てき面だ。
ファングとは、私がかれこれ6年くらい厄介になっている。家主であり、師匠だ。私は普段“老師“と呼んでいる。
老師の名は、この街だけではなく、世界中にも轟いているらしい。そんなことも知らずに私は転がり込んだわけだが……。さておき、老師の名は語るだけでも大変影響力が有る。効果の程については今見た通りだ。
正直、虎の威を借る真似はポリシーに反するのだけど、相手の戦意を削ぐには充分。これに懲りて二度と現れないで欲しいわ。
「おやすみー。じゃあね♪」
首を傾けて嫌味たっぷりに微笑み、トリガーをゆっくりと引いた。慈悲はない。
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