イブ、買い物中に日本人を拾う その5
「颯輝ね。私はイブ。こっちの子はグラムよ」
「ムー。って呼んでね!お兄さんっ」
ムーが、話に割って入るように付け加える。
その呼び名、気に入ってるのね。
ともあれ、話を続けた。
「……ここはモーナ。さびれてるけどいい街よ。見たところ、あんた、どこかかなり遠い所から飛ばされて来たみたいね。山っていったって、ここにはそんな滑落しそうな山はどこにも無いわよ?」
「南アルプスって山脈なんだけど、分からないか?」
「初耳ね」
そんな地名、聞いたことがないわ。
だけど、山から来たというのは本当のようね。通りで、この暑さの中にあって、厚着をしているわけだわ。相当に寒い場所から来たのかしらね。
服が所々破れかけているもの、落ちた拍子に何かに引っかかったというなら納得も行く。でも、どうやってこの場所に瞬時に移動したのかしら?
「……どうやら、ここは俺の知ってる世界じゃなさそうだな。周りの様子を見て一瞬で分かった。……でも、早く戻らないと!元の世界じゃ、ダチが心配してるはずなんだ。……ああ、もしも、これが夢なら早く覚めて欲しいもんだぜ。明日には剣道の試合もあるってのに!」
颯輝は頭を掻きむしって、自分の不運をアピールしている。
私といえば、それを尻目に全く別のことを考えていた。
……困ったわね。
妙なものに関わってしまったわ。
手を見て、この男の出身が気になっていたのだけど、どうやら、私が思い描いていた情報を持ったものでは無さそうね。
まあ、そうでなくても、助けた事で多少は何か見返りに美味しい情報とか手に入るかも?と期待はしてたけども。これは、当てが外れた。面倒ごとになりそうな予感がする。
多分、次はきっと、迷子なので家まで帰るのを手伝ってくれ。と言うに違いないわ。正直、そういうのは間に合っているの。もういっそのこと、ここいらで損切りしようかしら?
何となく、颯輝と目が合った。
「……な、なんだよ。俺何も変な事言ってないぞ?」
どうやら、私が、げんなりとしていたのがバレたらしい。意外に鋭わね。
颯輝は、ペースを取り戻したのか、少し落ち着いて来ている。
そして、誰に話すわけでもなく遠くを見ながら呟き始めた。
「……ああ、早く元の世界へ。“地球“に戻りたいぜ……」
……。
「えっ?!何言ってるの?…あんた、ここが地球よ?」
「へっ?!」
颯輝の台詞に私は、ビックリした。
颯輝は、もっとビックリしてるみたいだけど。
目の前の男は、地球に帰りたいという。どういう事よ?何か勘違いしていない?この私達が住んでいる惑星こそ地球だわ。他に人の住める星があるなんて話も聞いたこともないしね。もし、あるのならそれはそれで興味あるけど。
「おい!それって、どういうことだよっ!?」
「なによ?!こっちが聞きたいわよっ!」
颯輝は目を剥いて怒っている。
もう。何も大声出すことは無いじゃない。それに、そんなに怒るほどの事かしら?
そんな2人のやり取りに、ムーが恐る恐る割って入って来た。
「あのね、イブ。日本人について今調べてみたんだけど、……聞く?」
あら、上目遣いなの、かわいいわね。
「お?!マジか!頼むぜ、ムー!……というか、いつの間に調べたんだよ!?すごいなっ!」
「こらっ!あんたが答えないでよ!」
颯輝は、私の言葉には知らんぷりだ。それよりも、ムーに意識を集中している様でもある。
ムーは、名前を呼ばれたことに少し嬉しそうに微笑んでから、話を続ける。
「古い文献の中に残っていたよ。……日本人というのは、日本という島国に住んでいた太古の民族みたいだね。具体的に何年前まで遡るのかは分からない。途中で記録が途切れているんだ。……ただ、記録では、今この地球上には絶滅してしまって、存在してない事になってる」
説明を聞いた途端に、颯輝は憤り詰め寄った。
「……お、おい!デタラメ言うなよ!そんな訳あるかよ!ついさっきまで、ダチと一緒だったんだぞ!?話ながら歩いてたんだ!今だってその時の感覚がはっきりと残ってるのにっ……!!」
ムーは気迫に当てられ、怯えてしまっている。
まずいわね!逆上させてしまったかしら?!早くムーを助けないと!
――しかし、その時だ。
ドンッ!
何者かがぶつかって来たのだった。
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<キャラ紹介>
https://img1.mitemin.net/bx/c9/c0ysb4p399at7v8v3chyodiyw7_f81_19u_12w_hoxd.jpg
名前:ムー(グラム)
ジョブ:記録師
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