イブ、買い物中に日本人を拾う その4

《ディサイファー!》


左手の甲が透明感のある青緑色に発光した。


「にあだ?」


男が、不可解な面持ちで短い言葉を発する。


「サンプルが足りないから、もう少し何かこのお兄さんにお話して貰えないかな」


ムーは話しながら、両目を上下に小刻みに動かし続け、空中の何かを追っている。


ん?あれれ?それ、私の役?

はあ、この男が何者なのか少し興味があったけど、それも、段々面倒くさくなってきたなあ。


「えーと。……貴方は何者?どこから来たの?」


男に問いかけてみた。

私にしては結構丁寧なほうだ。


状況を整理しているのか、男は黒い瞳で周りをぐるりと見回した後、こっちをもう一度見る。その後、顎に手を当てながら独り言を呟き始めた。


「どえゆりさはじょえくょえひよもでひにしたえだ。がうさけぬすとひヘァアチジーつっけだす、うみはふきるやみまえむちうだっち?」


んー。無視されてる?ま、いいか。その調子で色々喋って頂戴。楽だわ。


「うーん、イブ。いま解析してるけど、現在使用されているどこの国の言葉とも違うみたいだよ。もっと遠い何かみたい。あ、いま解析終わったよ。…え?にほんご?」


「うみぬまあごっとうっちき?」


ムーの言葉で、男がこちらを見返した。

ジッと伺っている。視線が鬱陶しい。


「へー、知らない言語ね。ムー。それ、翻訳できる?」


「うん。言語が特定できたから、後はパターンに沿って翻訳した言葉を音変換すれば良いだけだよ。ちょっと待ってね」


そう言うと、男に手を向ける。次の魔法を詠唱した。


《トランスレーション!》


今度は男の周りに、ダイヤモンドダストの様にキラキラと、小さな光の粒が煌めいて消えた。


「これで大丈夫!魔法の効果範囲も、このお兄さんの周囲に指定しておいたよ!」


……はあ、ムーは本当に偉い子だわ。なでなでしたい。

は!いけないいけない。その前に確認しておかなきゃね。


「ちょっと!あんた。何か話してみなさいよ。誰なの?どこから来たの?」


同じ質問を男にしてみた。ムーの魔法の効果が発動していれば、意味が理解できるはず。


「うおっ?!急に言葉が解るようになったぞ?!」


さっきから驚きっぱなしの男は、さらにビックリして応えた。私にも、男の話す内容が理解できる。


ムーは大成功と言わんばかりに、ニコニコとターコイズブルーの瞳をこちらに向けて来る。

私は、それにウインクをして返してあげた。


「さあ、質問してるのはこっちよ?」


「……あ、ああ。すまん。俺は颯輝(はやて)。日本人だ。友人と一緒に山登りをしていたんだけど、途中足を滑らしてしまって、渓谷に落ちそうになったところまでは覚えているんだけどな。……気がついたらここにいた。ここは何処だ?あんた達は?」


にほんじん?知らないわね。

でも、取り敢えず話は通じる類いの相手の様だわ。


私は少し安堵した。

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