イブ、買い物中に日本人を拾う その2

その違和感というのは、今進んでいる道の先からやって来ているようだ。


よく見てみると、人の流れが、直線的な動きではなく、何か落ちてる物に触れるのを、まるで避けて移動しているかの様に動いていた。

人通りはそんなに多い所ではなかったので、遠くからでも薄っすらと地面に何かが転がっているのが見える。

なるほど。皆、アレを避けてるみたいね。


ところで、一体なにが落ちてるのだろう??


進むにつれてだんだんと、それが何なのか分かってきた。


それは、人だった。



「わっ!大変だよ、イブ!人が倒れてる!」


少し遅れて、ムーが反応した。


「多分、行き倒れじゃないかしら。……ムー。悪いけど、この道を行くのは止めるわね」


私はそう言いながらも、ムーが次に何を言うかを、何となく予想出来ていた。


「まだ、息があるかもしれないよ!助けなきゃ!」


……だよねぇ。予想通りだわ。


ムーは優しい。きっと、倒れている人を見たら助けると言い出しかねないからと思って、別の道を行く事を提案したのだけど、やっぱり駄目だったみたい。


それでも、私は気が進まなかった。

ここ、“モーナ“という街は、流通が多く、行商人や出稼ぎの人が、よく出入りしているが、とても発展した街かと問われると、そうでも無い。


昔はこれでも、一時代を築くほどに街の成長が目まぐるしかったらしくて、その頃に建てた古く背の高い建造物ばかりが今では目立つ。しかし、ここ数十年は衰退を続けているらしい。人口は少なくなったし、空き家も増えてきた。スラム化して治安の悪い区画もある。


スリは多いし、ひったくりだって多いし落とした物は帰ってこないし、暗いところを1人で歩こうものなら、直ぐにでも絡まれるし。

治安?何それだわ。


貧富の差だって大きい。

この街には、一握りの金持ちと、沢山の貧しい人達がいる。金持ち達は、富を守るために間に壁を築くことで、貧民がおいそれと入って来られないようにしている。


まあ、兎も角、お世辞にも豊かとは言い難いのだけど、それでも何故か好きなのよね、この街が。

こんな事を考えている私も、実はよそ者だったりするのだ。ちなみに、かれこれもう6年になるかしら。

きっと、何かの魅力がここにはあるんだろうとは思う。じゃないと、こんな所にずっとは居られないはず。

だから、この街に何か期待をして、他所の街からも人々が流れ着いて来るのかも知れない。

まあ、そんな訳で、来たのはいいものの、あても無く行き倒れてしまっている人を見る事も、全然珍しくないの。


ほとんどの人は、倒れている者には目もくれず通り過ぎていっている。

かくゆう私も、今、見なかった事にしようと思っている。

だって、いちいち相手していたらキリがないじゃない?


それに、冷たい様に感じかも知れないけども、私は人道的な理屈で人助けするなどという、非効率な行為はしたくないと思っているし、そういう性格だと自負している。

教養がないとか、そういうことではないのだ。一言でいうならば、そう、気分が乗らないのだ。


だけど、そんな私の考えも、次の瞬間には一転した。

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