第3話

 目を覚ますと自分の部屋のベッドの上にいた。時計は深夜0時を過ぎている。寝起きのせいか頭がうまく働かない。

 えーと、外出したのは11時過ぎだったっけ。


「起きたみたいね」


 女の声。目を向けるとそこには知っている顔があった。


「……舞さんか」


 寝ぼけているのかすぐに名前が出てこない。そんな俺を心配したのか彼女はずっと俺を見ている。


「どうかした?」

「何でもない何でもない」


 ようやく名前が出てきた。藤崎舞。俺と同じクラスの子で大家さんの家に住んでいる子だ。見慣れた制服じゃなくて上は赤いセーターで、下は黒のジーンズだから一瞬本当に舞さんなのか分からなかったよ。

 でも何で舞さんが俺の部屋にいるんだ? そもそも俺はどうやって自分の部屋に戻ったんだ? 舞さんがここいることは何か関係があるのか?


「何で……」


 続きが出てこない。聞きたいことははっきりしている。けどそれが上手く言葉にできない。


「とりあえず、何か飲む? 一息ついた方が落ち着くよ」


 彼女の提案に俺は首を縦に振る。少しして舞さんがコップを載せたトレー持ってきた。


「どうぞ」

「うん」


 受け取るため体を起こす。

 あれ?

 起こす。うん、できた。手を伸ばす。

 ん? 手を伸ばす。


「どうしたの?」


 舞さんがこっちを見ている。受け取ってから答えた。


「……変なんだよ。体がすぐに動かせないっていうか……」


 そうだよ。自分の言葉で理解した。体がワンテンポ遅いんだ。手を動かそうとしたらすぐ動くはずなのに少しのだけ間がある。

 舞さんは「そう」とだけ言って難しい顔をして考え込み始めた。そのまま数分、もしかしたら10秒程度かもしれないけど俺の実感ではそんな感じだ。

 

 ひょっとして今の俺やばい? うわー聞きたくない。でも聞かないともっとやばい気しかしない。

 話しかけようたってネタが思い浮かばないし、大体今話しかけていいのかも分からない。何をしていいか分からなかったのでとりあえず目の前のコップを口に運ぶ。お茶の味がした。飲んだこと無い味だけどいける。

 俺の部屋の冷蔵庫にはないものだ。舞さんが用意したのかな?

 そうだこれだ。これをネタにしよう。


「これ、舞さんの?」


 舞さんがこっちを向く、それから少しだけ間があった。


「お茶のこと? そうよ」


 そしてまた難しい顔を始めた。やっぱりまずかった?


「おいしい?」


 間に耐えられずお茶を飲んでいると舞さんから話しかけてきた。


「うん、うまい」

「そうでしょ。ところで……」


 声色が変わった。さっきまで難しい顔をしているのはこれから話すことが理由なのだろう。心の中で身構える。


「魔法って信じる?」


 魔法? 唐突過ぎない? いやでも舞さん顔がガチだぞ。どうする? ボケるべきか真顔で答えるべきか。

 そもそも魔法ってなんだ、何かの例えなのか。仮に何かの例えだとして何でそんなことを言い出すんだ? 

 確かに今、自分の体が変になっている自覚はある。これが魔法のせいだって言われたら信じるしかない。けど、魔法ってのちょっとな。呪いとか言われた方がまだ信じられる。


「ちょっと待ってて」


 舞さんは立ち上がって部屋の電気を消した。


「何?」

「見てもらうのが1番かなって」


 変な想像をする間もなく舞さんはもう1度俺の近くに座った。暗くなった部屋の中でも彼女の存在ははっきりと感じられる。


「見てて」


 舞さんの手から青白い光が見えた。手のひらに四角い光、なのかどうかは分からないけどそれらしいものは見える。もちろん電気の光なんかじゃない。


「信じられそう?」

「……うん」


 今やる意味がないからやってないだろうけど、これが手品やドッキリなら本気で尊敬する。それくらいはっきり手の平に光る何かが見えた。


「手品、じゃないよね?」

「うん」

「……俺の体もこれが原因?」

「正しくはこれを使う人間ね。この光、私達は光り彩るって書いて光彩って呼んでいるけど、私以外にもこれが使える人間がいるみたいなの」


 これが原因、ということらしい。イマイチ実感がわかないが舞さんの顔は真剣だ。とりあえず1番気になることを聞いてみる。


「俺、元に戻るかな」

「しばらく違和感が続くだろうけど……」


 チャイムとノックの音が舞さんの言葉を終わらせた。


「私もいいかなー?」


 少しだけ部屋に響く声、あの人だ。

 ドアを開けようと立ち上画廊としてけどできず、それどころかこけてしまった。


「私が出るよ」

「けど」

「あの人も光彩のこと知ってるから」


 あ、そうなの。

 舞さんは電気を付けてから玄関まで行った。


「邪魔するよー。大変だったねー、ほら差し入れ。朝食にでもしてよ。とりあえず冷蔵庫に入れておくね。体のことはどこまで聞いてる?」


 すぐにくだけた言動をするショートカットの女性が舞さんと一緒に現れる。20は超えているように見える普段何をしているか分からない俺が住むアパートの大家さんだ。


「そのうち治るってことは」


 大家さんはいつもの調子だから何だか安心してしまう。


「何かあったんですか?」

「今、何時かわかる?」


 俺と舞さんは時計を見た。時間は1時を指している。


「続きは明日にしたら?保護者代理としてはちょーっとほっとけないなー」

「でも、全部話した方が……」

「1度に言われたって混乱するだけじゃない? 頭の中を整理する時間も必要だと思うの。久弥君は今聞きたいことある?」

「体が元に戻ることが分かれば十分ですよ」


 大家さんについては後で聞けばいい。


「ほら、久弥君もこう言ってる。続きは明日ね」

「……はい」


 舞さんもとりあえずは納得したらしい。

 大家さんに引きづられるように舞さん帰った後、俺はベッドの上で大きく息を吸って吐いた。

 すごいことになった、ということは何となく分かる。状況を整理してみよう。


 俺の体が変になった理由は光彩というやつにあるらしい。その光彩とは舞さんが見せてくれた光のようなものらしい。ここまでは分かった。

 疑問なのは光彩だ。光るだけなら幽霊だとか人魂だとか言われておしまい。人の体をどうこうすることはできない。

 なら、どんな力があるんだ?


 俺の体がおかしくなった原因ははっきりとは分からない。けど可能性としては校門で後ろから何かに貫かれた瞬間が1番高い。あの時何かの感触があったということは実体があるということになる。けど鏡で自分の体を見ても外傷は無いし触ってみても痛みも無い。問題はあっても手足両方指含めてちゃんと動く。


 金縛りみたいなもんかな? でもそれだと舞さんが平気な理由が説明できない。舞さんは光彩が使える人間が自分以外にもいると言っていた。なら俺は彼女以外の誰かのせいでこんなことになったってことになる。

 誰かに狙われた?


 いや誰かって誰だよ。そもそも光彩を使える奴は何人いるんだ。それを舞さん達は把握しているのか?

 あーでも、2人は帰っちゃったし明日聞けばいいか。2人を信用していいのかって思わないわけじゃないけど現状頼れるのは2人だけだし、仮にあの2人が犯人なら俺に光彩を話す理由もないし信じていいだいいよな。

 あの2人を疑いたくないし。

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