episode.9




 あのクリスマスの夜から大分月日が流れ、五月の下旬、気温もすっかり暖かくなり、梅雨の訪れを感じる季節となった。


 あの夜から鈴華の姿は一度も見ていない。


 そんな状況に少し悲しく思うと同時に俺は安堵していた。


 あの日交わされた口付けで、彼女の気持ちを知ってしまった俺は、正直どう彼女と接したらいいのか分からなくなっていた。



 この世界では俺は存在しない。



 それに、目的の日が来たら今ここにいる俺はいなくなってしまう。

 それならば、このまま俺のことを忘れて、この世界の鈴華の人生を歩んで欲しい。そう思っていた。




 そんなある日のこと、俺が店の買い出しに街へ出た時だった。


「久しぶり……」


 そう言って、不意に俺の前に顔を出したのは鈴華本人だった。

 その姿はまた最後に会った時とは随分変わり、髪も短く、着崩していた制服は校則に沿うようにきっちりと着こなされていた。

 久し振りに会う彼女の姿はその装いだけではなく、どこか大人びて見えた。


「少し話さない?」


 俺は突然の出来事に、まだ心の整理が出来ていなかったが、それを断ることもなく、二人並んでしばらく歩いた。


「最近どう?」


 そんな当たり障りのない質問を投げ掛ける鈴華は至っていつもの、以前の彼女のままだった。


 そんな彼女の様子に、気張っていた俺はいつもの調子を取り戻し、最近あった出来事や家族の事、とにかくたわいも無い話を聞かせたのだった。

 以前の様に鈴華とこうした話をする時間はとても楽しくて、心から嬉しく思えた。


 俺からも鈴華の近況を聞いてみた。すると、驚いた事に彼女は大学受験に向けて勉強をしているというのだ。


 この世界で出会って間もない頃の彼女はとにかく勉強が嫌いで、そんな彼女の夏休みの宿題を手伝ったり、試験で赤点を取らないため、俺が勉強を強制してやらせるほどだ。


 そんな彼女もどういうわけか、大学、しかも理系に進みたいとのことで、今じゃ塾にも通っているという。

 彼女のその様子に俺は驚くとともに少し安心した。


 俺じゃない何かに没頭できるものができたのならば、それはそれで良かったと。これで心置きなく過去へ帰れる。そう思った。


 彼女は帰り際、次は八月十二日に会いに来るからと、それだけ言って彼女はまた俺の前から姿を消した。





 早いもので、気付けば八月十一日となった。

 いよいよ明日が、過去に戻る日となったのだ。


 今日の天気は雨。


 その日の晩は、この世界で過ごす最後の晩餐だった。


 家族水入らずで叔母の作った豪勢な料理を囲んだ。

 この世界での叔父と叔母も本当の家族として俺を迎えてくれて、支えてくれた。

 この世界に居場所を与えてくれたのは紛れもなくこの人たちだった。

 そんな皆んなに感謝を述べると、二人は泣き出し、俺を強く抱きしめてくれた。

 本当は行かないで、と言いたげなその言葉を飲み込んで、「行ってらっしゃい」と、そう力強く俺の背中を押したのだった。


 そんな様子を見ていた四歳になった美咲もなんとなくに状況を理解した様で、


「いかないでぇ、さっちゃんどこにもいかないで」と泣きながら俺に抱きついた。



「必ず帰ってくるから……。だから待ってて」



 俺はそれだけ伝え、彼女を強く抱きしめた。



 しばらく泣き続けた美咲は泣き疲れたのか眠りについてしまったが、その手は俺の腕を掴んだまま離してはくれなかった。


 美咲からクリスマスにもらったあのノートは、俺が読んだ後また美咲に回収されてしまい、そのまま行方知れずのままである。




 皆んなが寝静まって、一人自室にいた俺は窓から空を見上げていた。

 そこから見える景色は雨でなにも見えなかった。だけど、俺はそんな静かに振り続ける雨が別れの寂しさを全て洗い流してくれる気がしていたんだ。





 翌日、時刻は夕方の六時を指していた。


 いよいよこの世界で過ごした家族ともお別れの時がやって来た。

 気付けばあれから一年、色んなことがあった。

 俺の存在しないこの世界で、家族と出会い、鈴華と出会い、こんな場所でも俺の居場所ができたのだ。


この一年間の出来事を感じながら、俺は俺の帰りを待つ、祖父と祖母、そして母の仏壇へと足を向けた。



「遅くなってごめん……。今から帰るから」



 そう伝えた俺は、一年前に母の仏壇に備えたお守りを手に取り、封を広げると一枚の紙を取り出した。

 その紙に短く刻まれた言葉を今一度読み返すと、徐ろに筆を取り、その紙にある言葉を書き込んだ。そしてまた紙をお守りに戻し、仏壇の上に備えたのだった。


 その様子をみていた叔父が、「お守り、持って行かないのか?」と尋ねたが、その問いかけに俺は首を横に振った。


「あの御守りに書いてあったメッセージはもう受け取ったから……。今度は俺が届ける番なんだ……」



 俺は母からの『愛してる』のメッセージの横に、一言だけ『俺もだよ』と記したのだった。





 準備を終え、家族皆んなが見守る中、俺は一言、「行ってきます」そう言った。

 その言葉を聞いた、叔父と叔母は泣き出しそうになるのを必死に堪えて、「行ってらっしゃい」そう返してくれたのだった。


 皆んなから遠ざかって行く背中で、美咲が泣きながら俺を呼ぶ声が聞こえた。美咲の呼ぶ声に俺は答えてやる事が出来ず、ただひたすら前を向き、力強く、一歩一歩と前へと進んだ。


 そんな中、この一年間の出来事が走馬灯の様に思い出された。


 いつしか自分の存在しないこの世界でも自分の居場所ができていた事に、俺はどうしようもなく込み上げてきた。

 この一年間、この世界での生活は本当に楽しかった。

叔父と叔母は変わらずの優しさで、美咲は本当に可愛くて、鈴華は……。


 それでも俺は帰らなければいけない。待ってる人がいるから。救いたい人がいるから。


 俺はそんな思い出を胸に、足を止める事なく前へと進み続けた。




 裏山の入り口に辿り着くと、そこには俺の事を待っていた鈴華がいた。


 彼女に会うのは約三ヶ月ぶりだった。


 その姿は、初めて出会った頃と同じギャル目の服装で、それでも一年前とは違い、髪型は黒髪のショートボブと中々馴染みのない装いとなっていた。

 どのくらい待っていたのか分からない彼女に、俺は別れを感じさせない程に軽く手を上げた。


「よっ」


 そう短く挨拶した俺だったが、長い事待っていた彼女に対して、少し似つかわしくない陽気なテンションでの挨拶が癇に障ったのか、彼女は少し不機嫌に、「行くよ」とそれだけ言って俺の前を進んでいった。

 俺はそんな彼女に臆する事なく、以前彼女と話していた調子で振る舞い続けた。

 そんな俺に対して、終始彼女は不機嫌なまま山を登り続けた。

 一方的に俺が話をしている間に、俺たちは目的の崖まで辿り着いたのだった。


 ここからは一年前に過去にいた時の時間を感覚で感じ取り、己を信じるだけだ。

 少し余裕を持って家を出ていたので、未だ不機嫌状態の鈴華にある提案を投げかけた。


「せっかくだし、直ぐそこのにある、星がよく見えるところまで行かないか?」


 そんな俺の問いかけに彼女は相変わらず口を聞いてくれないが、コクリと頷いた。


 俺たちは更に山を登り、森を抜けて見晴らしのいい場所へとやってきた。

 昨日の雨が嘘の様に、空には満点の星が見えていた。

 そんな星空を眺めている俺の横で、鈴華は一人、静かに涙を流していた。




「雨……、止まなきゃ良かったのに……」




 不意に彼女から小さく放たれたその言葉に振り向くと、彼女は俺の首に腕を回し、強く身体を寄せたのだった。


「悟……、どうして私が会わなくなったかわかる?」


「……」


「どうせ勉強が忙しくなったからとか思ってるんでしょ……」

「それは……」


「違うよ」




 そう言った彼女の声は次第に大きくなり、震えているのを感じた。




「あのまま……、あのまま悟と会ってたら……、私、絶対に過去に帰らせたくないって、帰らないでって、そう言ってた……」




 鈴華は嗚咽混じりに泣きながら話を続けた。


「でも、でも絶対……、悟は過去に帰る事を選ぶって知ってたから……。だから離れたの……」


「……」


「でもね、離れても全然気持ちは変わらなくて、今も私は……、私は、悟に帰って欲しくないって……、そう思ってる」


「……鈴華、俺は……」



 そう切り出そうとした俺だが、それを遮って鈴華は涙で潤んだその目を俺へと向けた。




「それでね、私バカだけど考えたよ……。悟はどうやっても過去に行っちゃう……。だけど、必ず違う未来にまた帰ってくるって。だから私ね……、勉強して、理系の大学に入って、違う未来に行ける様に研究するの……。悟のいる未来に行ける様に勉強するの……」




 そう言った彼女は涙をボロボロと零しながらに笑顔を作った。

 その姿を見た瞬間、自分の愚かさに気付いた。


 俺は彼女が俺以外に何か興味を持って、俺の事を忘れてくれったらそれで良いと、そんな逃げる様な事ばかり考えていた。でも、彼女は違った。

 居なくなってしまう俺をどうしたらまた会えるのか、忘れないでいられるのか、ずっと一人で悩み戦っていたんだ。


 そんな彼女を思い、半年間何も助けてやれなかった自分を悔やんだ。

 そんなどうしようもなく、遣る瀬無い気持ちでいた俺に彼女は優しく告げた。





「でもね……、もし……、もしね、私がどんなに頑張っても、悟に会う事が出来なかったその時は……、違う未来にいる私を……、幸せにしてあげてね」





 彼女はこの数ヶ月、一人で戦い、最後にはここまで覚悟を決めていたのだ。


 その答えを導き出すのにどれだけ時間がかかったか、どれだけ鈴華に無理をさせていたことか、どれだけ勇気を振りしぼってこの言葉を言ったのかと考えると、俺は胸が張り裂けそうなくらいに彼女のことを思い、強くその身体を抱きしめた。




「あと、欲を言うと……、私のこと、ここにいる笹木鈴華を……、どうか忘れないで……」




 そう弱々しく伝えられた彼女からの言葉に、俺は泣きながら答えた。


「ああ……、忘れない……、絶対、忘れないから……」


「よかった……」




 その時、俺は気が付かなかったが、夜空にはいくつもの星が流れていた。

 それに気づいた鈴華がポツリと、「無事に悟が過去へ帰れますように……」そう呟いたのを俺は聞き逃さなかった。





 しばらくして、二人、落ち着きを取り戻すと、そろそろ行かなくてはいけない時間となっていた。

 俺と鈴華はお互いに手を取りながら目的の場所へと向かった。


 その場所へと辿り着いた俺は鈴華の手を離し、最後に涙ぐみながらに言葉を交わした。


「色々ありがとな……。鈴華がいなきゃここまで来れなかった……。本当にありがとう」


 そう言った俺は改めて彼女の方に目をやると、彼女は以前の一緒に過ごしていた時に見せた笑顔を向けていた。


「ありがとうは私の方だよ……。悟のおかげで人生変えられちゃた。まあ凄い楽しいかったし、悟には感謝してるよ……。こちらこそ、本当にありがとう……」


 そう答えた彼女と少しの間、何も言わず見つめあった。


「じゃあ、そろそろ行くよ……。俺が過去に帰れたのが分かったら、叔父さん達に報告頼むな」

「うん、任せて……。まあ、ないと思うけど、もしも失敗しちゃって、下で伸びてたらまた私が助けてあげる……。これだけは私の役目だから」

「ははっ、そうだな……。それは鈴華にしか頼めないや」

「それと、ダメでも私が科学者になって、必ず過去へ送り届けるから……」

「それは頼りにしてるよ」

「あ、あとねっ!」

「くどいわっ……」



 いつもの様に俺が鈴華にツッコミを入れようと振り返った瞬間、あの日、クリスマスの時を思い出す、温かくて柔らかい感覚が俺の唇に重なるのを感じた。




 その感覚に身を委ねていると、少しずつ鈴華との距離が離れていく。

 ゆっくりと閉じていた瞼を開いていくと、彼女の口元が少し動くのが見えた。





「バイバイ」





 気付けば次第に遠退いていく彼女の姿に、俺は崖から落ちている事に気付いた。




 鈴華……、ありがとう……。




 そして俺はいつの間にかに意識を失ったのだった。







「待ってるから……」



 失った意識の中で、何度も見た母の姿とその言葉が聞こえていた。

 徐々戻り行く意識の中、俺は重く閉ざされた瞼を開いた。


「悟ー! どこー! 返事して! どこにいるの!」


 遠くで聞こえた、聞き覚えのある少女の声に俺は意識を取り戻すと共に、今までの事を思い出した。

 

 そうだ。俺は母さんを救う為に過去へ戻ってきたんだ。あの物語を描くために。

 大事な事を思い出した俺は、直ぐ様、俺を探す母へ返事をしようと立ち上がろうとした。しかし、その瞬間、身体が大きくぐらつき、再び倒れ込んでしまう。


 このままでは俺が無事である事を母に伝えられない。


 俺は朦朧とする意識の中で、何か良い手はないかと考えを巡らせた。

すると、俺の目にある光が差し込だ。


 それはクリスマスに鈴華から貰ったブレスレットだった。これは角度によって違う輝きを見せるという物で、俺は彼女から貰ってから肌身離さず付けていたのだ。

 俺はそんなブレスレットを腕から外すと、思いっきり空へと投げた。


 高く、高く、その光が母に届く事を信じて。


「悟……⁉︎ 悟なの? そんな所で何してるの!」


「母さん……」


 俺の思いが届き、もう二度と会えないと思っていた彼女、十四歳の母、相田七海との再会を果たしたのだった。



 母さん……。良かった。生きてる……。



 崖の上に立つ母に自分の無事を伝えようとするも、まだ思う様に身体が動かない。


「……たくっ、心配させないでよね。どんだけ探し回ったと……⁉︎」



 そう彼女が口に出した瞬間、足元が崩れ体制をくづした彼女が崖から落ちるのが見えた。


「母さん!」


 それまでまともに身体を動かせなかった俺だったが、彼女が落ちるその瞬間、とっさに俺は彼女の落下点へと走り出していた。



 いやだ! ここで終わらせるわけには行かないんだ! 俺たちの物語はこんなところで終わるわけには行かないんだ!



 そう強く思いながら、間一髪の所で母を受け止める事に成功した。

 しかし、落ちて来た母を受け止めた衝撃で俺は勢いよく地面へと叩きつけられてしまった。そして、俺は次第に意識が薄れ行く中、彼女が俺を呼ぶ声が聞こえていた。


「悟……、悟! しっかりして! 悟!」




 よかった……。俺は母さんを助けられたんだ……。本当に、よかった……。




 そして、俺は再び意識を失った。






 どのくらいの間、意識を失っていたのかは分かっらなかった。


 そんな中、俺はとある声を聞いていたのを覚えてる。

 それは俺の大切な人の声。

 何度も何度も、その人は俺の名前を呼んでいた。


 それはとても必死に、時折嗚咽を混じらせながら俺の名前を呼んでいたのだ。

 そん声に俺はとても心地よく思っていた。


 ずっと聞きたかったその声、俺の名前を呼ぶ彼女の声をずっと俺は探していたんだ。



 段々と失っていた意識が戻ってきて、俺は目を覚ました。

 そこには見慣れない天上と、俺の隣にはベットに寄り添って眠る母の姿があった。

 十四歳という幼さがまだ残っているがそれは紛れもなく俺の母だ。


 そんな彼女に会う為に俺はまたこの過去に戻って来たのだ。


「悟……」


 寝ている母は寂しげに俺の名前を呟いた。

 そんな彼女の姿が愛おしく、彼女の頭を優しく撫でた。


「ただいま、母さん……」


 その瞬間、母が勢いよく目を覚ました。

 俺はいきなりの出来事で、慌てて彼女の頭に置いていた手を振りほどく。


「悟⁉︎ ……良かった。本当に良かった……」


 そう言った母の顔は次第にくしゃくしゃになり、その目からは涙が溢れかえっていた。


「母さん、おはよう。また会えて良かった……」

「また会えてじゃないわよ! こっちがどれほど心配したと思ってるの……。本当にバカ! バカ息子!」


 泣きながらに怒鳴り散らすと同時に、彼女は優しく俺を抱きしめた。

 そんな母の温もりはとても懐かしく、温かかった。


 その温もりを感じていると、本当にここに帰って来たこと、母を助けることが出来たことを実感した。


「悟……、昨日はごめんなさい。私、あなたに酷いこと言った……。母親なのに……、悟の母親なのに」

「いいんだよ、母さん。ここに居てくれるだけで俺は十分だ。それに……、母さんがどう思ったって俺の母さんなんだ。それは何があったって俺の中で変わらない……」


 そう言うと、母は俺を抱き締めていた腕を解き、涙を拭って、「そうね」と笑ったのだった。





 俺は過去に戻って、一番大切なものを取り戻した。



 その道のりは長く険しいものだったけど、その中でも確かにあった大切な出会いがあって、俺はその人達やここにいる皆んなに助けてもらったんだ。



 俺はあの場所で過ごした日々を一生忘れない。

 皆んなは知らない、あの世界の事を……。



 そう思うと、俺は自分の右腕に付けていたブレスレットをそっと撫でたのだった。





 その後は俺が強く頭を打っていたこともあり一日検査入院をした後、次の日には退院できた。


 退院する時は母が迎えに来てくれて、一緒にあの家へ帰った。


「あのさ、今日の夜、裏山に行かないか?」

「え? なんで?」


 俺のいきなりの提案に不思議に思いそう尋ねてくる母。


「実はさ、ずっと思ってたんだ。母さんと星が見たいって……」


 一年前に思った事をようやく口に出せた。


 それを聞いた母は、少し顔を赤らめて恥かしげに答えた。


「まぁ……、バカ息子がどうしてもって言うんなら……、仕方ない。行ってあげてもいい……、かな……」




 その夜、俺達はあの裏山へ向かった。

 道中、俺はこの一年、未来で過ごした色々な日々を思い出しなが歩いた。


 そんな俺の横を歩く母は何やらジロジロとこちらを見ると声を掛けた。


「やっぱり、悟……、少し大っきくなったよね? 身長」


 不思議そうにそう尋ねてくる母に、俺は遠い目をして答えた。


「そうだな……。色々あったからな……」


「色々って何よ?」

「色々は色々だよ……。まあ、気にすんなって」

「なにそれ! 腹立つー。母親に隠し事なんて、十年早いわよ!」

「俺はもっと先から来てるっての。隠し事の一つや二ついいだろ」

「なんなのもー。なんか大人っぽくなっててムカつく! いいから話しなさいよ!」


 そんな母と過ごすたわいも無い時間がとても幸せに感じた。



 話しながらに足を進めると、俺たちは目的としていた、星がよく見える場所へ辿り着いた。



「キレイ……」



 星空を眺めながらにポツリと呟いた母。


 そんな彼女の横で俺も夜空を眺めていた。


 その景色は俺が一年前に一人で見た時よりも何十倍にも綺麗に見えていた。




「叶ったよ……。俺の願い……」




 星空を眺めながらに一人呟いた。

 その声を聞いた母は「何が?」と小首を傾げるが俺はそれ以上、何も言わなかった。




 一頻り、空を眺め終わると、俺たちは帰路に着く為に歩き始めた。

 俺は夢が叶った満足感から、少し浮き足立っていた。

 そんな俺の姿を見ていた母も少し嬉しそうに隣を歩く。



 幸せな時間を過ごし、これが俺の知りたかった物語の結末だと、そう思った。




 しかし、物語はまだ続いていたんだ……。




 未来で読んだ、あの物語は途中で途切れていたが、続きがちゃんと存在する事に俺たちはこの後、思い知らされるのであった。


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