第5話
今日は日曜日。
つかさの普通な料理を食べ終えた私はこの空っぽな部屋を見てうーんと唸っていた。
「どうしたんだ?あかね」
「いや、なんにも無さすぎてもったいないと思って」
必要最低限の物は揃っているからまぁいいのだけども、それでも彩がない。
私のイメージする天川つかさはもっと煌びやかな感じの部屋だと思っているのだけども…。
実際はほとんど何もない部屋だ。
「せっかくいい部屋に住んでるのにやっぱりもったいないよなぁ」
「そ、そうかな?ある程度機能していれば問題ないと思うが…」
無頓着すぎるぞ天川つかさ!
いや、まてよここまで物に無頓着すぎるって事は……
ふと、嫌な予感がした。
「お前服とかは?どこで買ってるのよ?」
「ん?基本ムニクロだ」
「うわぁ…」
「な、なぜ引いてるんだ?」
料理という意外な弱点はまだ笑って過ごせる。けど、服とか物に無頓着すぎるというのは弱点というより、もはや致命的すぎた。
「と、とりあえず…!服見に行こう」
これはなんとかしなければならない。
そう思ってつかさの手を無理矢理引いて外に出た。
「てかなんでアンタそこまで物に無頓着なの?」
電車に揺られながら聞く。
「いや、別に無頓着というより買いたいものがないんだ…」
それを無頓着と言うんだよ!!と叫びたくなる気持ちを抑える。
たまにいるんだ、自分を正常だと思ってるヤバいモンスターが。まさかつかさもその一人だとは思っても見なかったけど。
「服は安いムニクロで揃えてしまえばいいし、家具とかはある程度あれば生活出来るだろ?」
「つかさって残念なやつだったんだな」
「ざ、ざんねん!?」
ショックを受けるつかさ、なんというか知りもしなかった。
幼馴染だから何でも知っていると心の中ではそう思っていたけれど、私でも知らないつかさがまだまだあるんだなと私は思った。
「そういえば、こうやって二人で出掛けるのも久しぶりだな」
「……うん、そうだねあかね」
遠い過去を懐かしむようにつかさは笑みを浮かべた。
「さて、どの服を着せようか」
つかさの服装は無地のシャツにジーパンといった舐めてるとしか言いようの無い酷いものだった。
というより、ちゃんとした服はあるものの全部洗濯に出してるだけと言い訳を言っていたが。
「だったら買え!!」
そんなおふざけコーデなど私が許さん。
「わ、わかった…わかりました」
つかさは私が鬼教官にでも見えているのか何故か敬語だった。
つかさ着せ替え人形は正直言って楽しかった。
清楚系やカッコいい系、はたまたメイド服やチャイナドレスといったものをどんどん着せてはドンドンハマっていく。
当初の買うという目的よりも着せ替えては満足するという方面へと私は走っていった。
「おお…これはいいわね」
「も、もうやめにしないか?」
今は寝巻きの方を試着している、もこもこの猫ちゃんパーカーだ、着ているつかさはめっちゃ可愛いがお値段はかわいくない。
つかさはと言うと幾たびの着せ替えによって疲弊と恥ずかしさで疲れ果ててるご様子。
「はぁ?まだまだ続けるわよ!ほら次!」
「あかね!お願いだからまってくれー!!」
2時間後。
「つ、つかれた…」
「そう?私は全然よゆーだけど」
そりゃそうだろうねと乾いた笑みを浮かべながら私を見るつかさ。はて?
「まぁいい服もあったし良かったんじゃない?全部似合ってるし」
「そ、そう言われたら照れるじゃないか…」
顔を赤らめるつかさ、まぁアンタみたいな美少女だったら、そらどんな服着ても似合いますわなと心の中で毒吐きながらワックのポテトを一つ口に入れる。
やっぱり細くて柔らかいポテトはうまい。
「そういえば、この後はどうするんだい?」
「ん?まぁテキトーに面白そうなのあったら買うかなぁ…って思ってたけど」
「けど?」
「私もつかれた」
と手をひらひらさせてこうさーんとポーズする、それを見たつかさはフフと笑みを浮かべた後。
「じゃあ帰ろっか?」
「ま、そうだね」
結局、最初の目的であるつかさ家装飾作戦は全くの手付かずで終わったが、服買ったりとそれなりに楽しい休日になったなと思うのだった。
一方そんな私達の背後には知らない一人の影がついている事に今は誰も気づかなかった。
「あのあかねとかいう不良…ゆるせない!」
怨嗟の炎を撒き散らしながら、私を睨みつけている事を知らずに。
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