第4話

 

 ふと目が覚めた。

 朧げな視界の中で私は部屋を見渡す。

 しらないへやだ…と寝ぼけながら呟いてふと床へと目をやった。

 床には毛布を布団代わりにして眠っている天川つかさの姿があった。寝心地が悪いのか「うーん…」と苦しそうな声が漏れている。


 なんでこいついるんだっけ?と思いながら私はベッドから出て思考する。

 そーいえばここコイツの家だったわ。

 それでなんでコイツが床に寝てるのかというと単なるカッコつけだった事を思い出した。

 好きな人を床には寝かせられないなんて言って無理矢理ベッドに寝かせられた覚えがある…。

「むぅ……」

 だからってこの家の主人が床に寝るのはどうなんだ?

 それにこっちが厄介になってる身で、ここまで優しくされるのはなんか嫌だ。

「とりあえずこいつをベッドに寝かしてやるか…」

 日頃使わない筋肉を酷使してつかさを持ち上げる。

 案外重くないけど、それでも人一人持ち上げるのはキツい、筋肉が悲鳴を上げてるのがわかる。

 そんなこんなでベッドに寝かせてやった。

「はぁつかれた…なにやってんだろ私」

 時計を見ればまだ4時、まだまだ眠っている時間だ。

「私も寝よ…」

 つかさが眠っていた床に身体を横にして眠ろうとする……うん寒い。

「眠れない……」

 つかさ、こんなとこで眠るとかやばいな、なんて思いながらつかさの眠っているベッドに無理矢理入る。

 背に腹は変えられない、ていうか床じゃあ眠れない。

 コイツと一緒に寝るなんて嫌だけど、まぁコイツ喜びそうだし…まあいっか。


 興奮するつかさの顔が脳裏に浮かんで、ふふっと笑みが溢れた。

 そして次第に微睡へと誘われていった。



「……………」

 天川つかさは基本驚かない、というよりあかね以外の人間には弱みを決して出さない人間だった。

 だが、今朝は違った。

 目を開けるとそこにはあかねの顔があったからだ。

 何度か瞬きをして、状況を理解するためにハイスペックの脳をフル回転で稼働させる。そして導き出した答えはなんともアホな回答だった。

「……………かわいい」

 まともな思考は出来ないけれど移す行動は決まっている。

 スマホを瞬時に取り出してカメラを起動させて、ピントを合わせる。そして。


 パシャっ!と音が響いた。


 静かな朝にシャッター音が部屋に響き渡る、しまったと顔に出しながら起きないようにと祈る。

「んぅ…うん…」

 ドキドキドキドキ…。

 起きはしなかったが酷く緊張した、こんなに緊張したのはいつぶりだろうか?


 それはそうと撮った写真を見てみる。

 我ながら完璧だ、というより被写体が完璧なんだから写真が完璧にならない訳がない。

「壁紙にしよう…」

 すぐさま壁紙に変えて満足感に浸かる。

「それで…なんで私はあかねのベッドにいるのだろう?」


 そんなこんなでつかさとあかねの今日が始まる。

 


 もう一度、目が覚めた。

 次の目覚めは寝覚めのよいものでスッキリとした気分だった。

 両手を広げて身体を伸ばす、そして先に目覚めて朝食を作っているつかさを見て「おはよう」とちょっと不機嫌ぽく呟いた。

 なんで不機嫌なのかと言われるとあんまりリアクションがなかったからだ。

 一緒に寝てあげたんだから顔を赤らめるくらいしてほしかったと思った。

「おはようあかね」

 澄ました顔でそう言って何か作っている。

「なに作ってんの?」

「味噌汁と焼き鮭…」

 なんか地味だな。

「じ、地味なのは分かっている!」

「また心よんできたな」

「……ただこれくらいしか作れないんだ」

 しょんぼりとするつかさ。

 そんな彼女を見て私は、おもいっきり笑ってしまった。

「あははははははは!」

「な!ひ、ひどいぞあかね!」

「ふふ、だってなんだって出来るつかさが料理だけは出来ないのがおかしくてさ」

 つかさは何だって完璧にこなす、スポーツも勉強もゲームでだって。

 昨日の格闘ゲームで知った、私はコイツには敵いっこないと。でもそんなつかさにも意外な弱点があるということがどうしようもなく嬉しかった。

「べ、別に不味いものができる訳じゃないぞ!ただ普通になるというか…なんというか…」

「なるほど平凡な味なのね、これは出来上がりが楽しみだわー」

 ケラケラと楽しむように笑いながらつかさをいじめる。

 今日は朝から楽しいな、なんて思いながらいじけたつかさの料理を口に入れた。


 うん普通。

 

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