ある兄妹の話
……私は罪の告白をしなければなりません。そして自らの罪を白日の下へさらすと共に、自らの命を絶つことで、その罪を償わなければなりません。
……この事を話すには、まず私たちのことを始めから話さなければなりません。私と、妹のことを……。
私たちは幼くに両親を亡くし、その後は母方の祖父母に育てられました。彼らは非常に良い人たちだったのですが、物心の付いた後のこともあって、その二人に何だか距離を感じていたのでした。私たちは、自分達兄妹だけが真実の家族であるような気がして、いつも二人一緒にいました。
その気持ちが世間一般で言うところの家族愛という者とは違うと言うことに気付いたのは何時の頃だったのでしょうか……私たちはお互いを男女として意識し始めていたのです。
しかし、それ以上の関係に進むことはありませんでした。私たちはお互いに血の繋がった兄妹で有り、そのようなことは決してあってはならないと思っていた、といったことではありませんでした。私たちがそのような関係になったとして、果たして同居している祖父母にそれが露見した時に、どうすれば良いのか、分からなかっただけなのです。追い出されでもしたらどうしようと……離れ離れにされたらどうしようと……唯々それが不安であっただけなのです。その程度の理性は私にもありました。
それからいくつほど歳月が経ちましたでしょうか……私はある会社に就職しました。祖父母の家から離れたところにも就職できたのですが、妹と離れ離れになるために、そこに行くことを諦めました。
そして……それから一年ほど経った時のことです。祖父母が相次いで死にました。
流行病でした。二人とも老体のために、それが肺炎になってしまい、命取りになったのでした。
その時の私たちの気持ちを何と表したら良いのでしょう。
その頃には、始めに二人に対して感じていた距離と云うものは消えていました。それこそ実の親のように思っていたのです。当然、悲しみました。しかし、私には、彼らの死はもう一つの意味を持っていたのです。
それでも、最初の頃は二人ともそう言った雰囲気にはなりませんでした。矢張り、そういった理性はありました。しかしそれも長くは続きませんでした。私たちはそれほど時間も経たぬ内に、官能の渦に飲み込まれていったのです。
妹の腹に、一つの命が宿ったのは、間もなくのことでした。
毎日のように肌を重ね合ったのですから、当然の結果だったのでしょう。妹は、その子供を産みたいと言いました。私は、渋りましたが、結局それを了承しました。それが、あんな結末を生んでしまうとは、考えずに……。
私と妹の子は、生まれながらにして死んでいました。腹の中で死んでいたのです。それは、神様が、私たちに下した罰であったのかも知れません……しかし、本当の罰、本当の地獄はこの後から始まったのです。
妹は、狂人になってしまったのです。赤ん坊がまるで生きている様に振る舞いだしたのです。赤ん坊を抱いている彼女の腕の中には、何も無いのです。夜泣きだと言って、私を無理矢理起こすこともありました。胸をはだけて、いない子供に授乳をする真似をすることさえありました。それで、子供が死んだことをいくら話しても聞き入れませんでした。最後には、真正の狂人の様に騒ぎ出すのです。
私は、妹を家から出さないようにしました。妹の行動は、外に出すには過激に過ぎました。私は部屋に妹を入れ、外から鍵を掛けたのです。しかし妹は、外に出ようとする素振りすら見せませんでした。
それがどれほど続いたでしょうか。私達の神経は知らない内にすり減っていったのでしょう。ある日帰宅すると、妹が死んでいました。遺書はありませんでした。その日の前日に大がかりな言い争いをしたのでした。それが危ういながらも保っていた妹の精神を崩壊させる最後の一押しとなったのでしょう。
妹を殺したのは私です。私が殺した様なものなのです。
ああ……私達は一体どうすれば良かったのでしょう。
最早、私の生きる意味は見失われました。
そうです。これは妹を殺した私への罰なのです。
私は、私を殺して、罪を償わないと妹に顔向けできません。
それでは、さようなら。
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