水中都市

 私はその都市に訪れた途端、そのあまりの美しさに目を奪われた。

 水の中でゆらゆらと揺れる太陽光に照らされたコンクリートの建物は幻想的な輝きをその外壁に浮かべていた。主に忘れ去られた一軒家は、屋根に欠けた瓦と原始的な水生動物のコントラストを描いている。

私は、その風景をみながら、ゆっくりと下降していた。コポコポと空気が頬を伝って、水面へと上昇していく。


 ゆっくり下降していく内に、私はこの水中都市が静けさの中に壮大な音楽を奏でていることに気付いた。

 それは、僅かな泡(あぶく)の音だった。それは魚が水中を泳ぐ水の振動だった。それは私を包む水の対流の動きだった。その場にある全ての存在が、楽器であり、指揮者でもあった。それは、この私も同様だ……私が水を動かし、それもまた新たな音楽となる……。

 ああ……なんという贅沢なハーモニーだろうか!


 やがて、私は水底に着いた。そこは、元々道路であった様で、ヒビの入ったコンクリートが、目立った欠けもなく静かに私を歓迎した。

 私は、水面を見上げた。光がカーテンの様に水中を照らしていた。それに照らされて、家々が輝いていた。その様は神に祝福されているようであった。

 その時、魚が近寄ってきた。ずいぶんと人なつっこい魚もいるものだ。私は、首元に近寄ってきたその魚に対して、何ら反応をしなかった。人に害する種類ではないと思っていた。しかし……。

 魚は私の首の肉を食いちぎると、味を占めたように二口、三口と食を進めていった。

 痛みは感じなかった。

 ああ、私は死んでいたのだな。私はこの時になって、漸く悟った。

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