市街戦
……トラックに揺られている。
幌馬車の様な構造で、私を含めて十人が、両側面につけられた椅子に座り、膝を合わせていた。皆、無言であった。
私たちは軍人である。それも士官であった。
私たちは戦場に行くのだ。前線へ行くのだ。
トラックの中で、私は支給された小銃を握りしめ、待ち受けている戦場に思いをはせていた。ヤッテヤルゾ……という気概と、妙な緊張感が私を支配していた。
途中で、市街地を通った。その町に人はいなかった。しかし、銃弾によって開けられた穴の存在しない建物は無く、ひときわ大きなビルは、途中から崩れ落ちていた。戦車の砲撃によるものだろう。道端には瓦礫が散乱しており、道も、舗装が壊されているのか、トラックがガタガタ振動していた。ここはかつて戦場だったのだ……。
私は、トラックの振動に言いしれぬ不安を覚えていた。自らの不吉な未来を暗示しているようで……。
市街地に入ってからどれほど経ったであろうか……トラックが左右に分かれた道を、左に行った。
その時であった。急にトラックが止まったと思うと、私たちは急にトラックから降ろされた。
そこはまだ市街地の途中であった。
まだ目的地には遠い。
その時、銃声がした。
敵の襲撃である。待ち伏せをしていたのだ。
私は慌ててしゃがみ込み、近くの砲弾によって出来たクレーターの中に身を投げた。銃弾を避けるためである。
私はこの時、急に恐怖にとらわれてしまった。
体の直ぐ横を通り過ぎる銃弾を感じた途端、それまで意識していなかった死を急に目の前に突きつけられたのである。
私は急に命が惜しくなった。
私は何でこんな所にいるのだろうか……明日には死んでしまうのでは無いだろうか……。
そのような思いが、頭の中をグルグルと駆け回り、どうしようも無くなってしまった。
私は、小銃を胸の前に抱えたまま、進行方向とは逆へ駆けだした。
戦場から逃げたのである。
……その瞬間、私の喉を、銃弾が抉った。
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