黒猫
猫が塀の上を歩いている。
しゃなりしゃなりと足音を立てずに……。
黒猫である。背中の部分が日光を反射して、白く光っている。
目は黒炭の様に、黒く、輝きを放っており、その中に風景を閉じ込めている。
私は、その様子をジッと見ていた。
「おい」
急に野太い声が聞こえてきた。ハテ……一体誰であろうか……。
「俺だよ……お前の目の前にいる……」
気付くと、猫の方も、私の方をジッと見ていた。視線が絡みつく……。
猫が喋っている……。
「おう、気付いたな。さて……お前に離したいことがあるんだ」
猫は、口をもごもごと動かしている。
「な……何ですか……」
私は若干緊張しながら、問いかけた。
「いや、あんまりジッと見つめるものだから、こちらも安心できなくてね……俺も、これからここで寝ようと思ってるんだが、そう見られては寝付けない。頼むから、他所に行ってくれないかな」
黒猫はそう言って、ふにゃあと欠伸をした。
私は、促されるままに、その場から立ち上がった。
「うん……それでいい。ご苦労様……」
そう言うと、猫は丸くなって眠る体勢に入った。
その姿はまるで普通の猫のようであった。
私は、今のは白昼夢だったのかしらんと、首をかしげながら……その場から去ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます