風
ビルに挟まれたその道では、時折強い風が吹く事があった。
この風というものが、非常にやっかいなものである。ひどいときには、まっすぐ進むことが出来ず、その道を行く人々は道を挟むビルに一時的に避難するほどだ。
どうやら、この風は吹き下ろすビル風が原因となっているらしいが、詳しいことはよく分かっていない。
この日も、信じられないほどの向かい風が吹いており、私は正面に進む事すら困難な状態となっていた。私は、この風の中を、亀のようにノロノロと進まざるを得なかった。
目に粉塵が入らぬように、細め、さらにその前に手をかざしておいた為、前方の風景などは殆ど見えない有様であった。目だけではない。吹きすさぶ風の音のせいで、耳も良く分からなくなっていた。
この道の先には交差点と、その上に歩道橋があった。これは、交差点に面している、デパートと接続されているのであるが、私はこの歩道橋を、道から直接上がれる階段から利用しようとしていた。
導かれるが如く……。
私が、歩道橋の階段に差し掛かった時、なにやら叫び声らしきものが、風の轟音に紛れて聞こえてきた。
それから、ゴロゴロと、階段から、何かが落ちてきた。
人である。
四十頃の男だろうか。
「大丈夫ですか?」
私は慌てて彼を起こそうとしたが、ぬるりとした感触を手に味わい、それを止めた。
血であった。頭から出ている。
どうやら、落ちてきた時に強く打ったらしい。
私は思わず階段を見た。
階段の上に、人が立っていた。
その時風がひときわ強く吹き、私は思わず目をつむった。
目蓋(まぶた)を開くと、階段の上には誰もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます