雷の子供

 空がピカリと光って、ガラガラという音が聞こえた。

 見上げると、ドンヨリとした雲が低く立ちこめていて、空を灰色に染めている。

「落ちるかな」

 彼女の言葉に、私は、

「どうだろう」と答えた。

 空は相変わらずゴロゴロと鳴っていて、嫌な模様である。

 すると、空がひときわ大きく光り、ドンガラガラドンとひときわ大きな音がした。

「落ちたな」

「落ちたね」

 その時、一人の子供が私たちの前に忽然と現れた。年は六歳程度であろうか。

 子供はジィっと、私たちを見つめている。

「どうしたの?迷子?」

 彼女は、視線に耐えられなくなったのか、子供にそう尋ねた。

「私は、雷(かみなり)の子供である。故有って、地上に落ちてしまった。そこで、お主らに私が天に帰る手伝いをしてもらいたい」

 えらく偉そうにしゃべる子供だなと思った。

「天に帰る手伝い?」

 その言葉が気になった。

「うむ。といっても、難しい話ではない。父上と母上に私が落ちたことを、知ってもらえれば良い」

 両親がいるのか、と私は少なからず驚いた。雷にも親子関係があるのだろうか。

「それは、どうやるんだ?」

「それはだな……」

 私たちは、子供を近くのスーパーの屋上に連れて行った。

 子供が、曇天の空におういと呼びかけると、空がピカピカと二回光った。

 すると、若い男女がいつの間にか後ろに立っていて、すみませんと声を掛けてきた。

「父上!母上!」

 子供が、振り返るなり、大声を出して、男女に飛びついた。

 大人びたしゃべり方をしていても、子供である。両親とはぐれて心細かったのだろう。

「ありがとうございました」

 母親が、頭を下げてきた。

「いえ……」

 私はそう言って、首を振る。

「では……」

 父親はそう言って、頭を下げた。

 次の瞬間、頭の上の雲がピカッと光ったかと思うと、親子は、瞬く間に消えてしまった。

「……結局、あの親子は本当に雷だったのかな……」

 彼女は、そう良いながら、空を見上げる。

「どうだろうな……」

 私は、そう答えて、同じように空を見た。

 すると、それを待っていたかのように、空がピカピカと光った。

「わぁ綺麗……お礼かな……」

「そうだな……――・――、――・、・―・・、・・、・・―・・、・・―……あ、り、が、と、う……か」

「何だか素敵ねぇ」

 彼女の言葉に私は、

「そうだな」と頷いた。

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