おとぎばなし~不可思議寓話集~

芥流水

お月様と親子

「ネ……お父様……あのお月様取って……」

背中に負ぶった娘がねだるので、父親は夜空に浮かぶ月に手を伸ばした。

すると、空に浮かぶ月は姿を消し、彼の手には、黄色く光る、ビー玉が握られた。

「ほら、お月様だよ」

彼は、それを背中の娘に差し出した。

「ワ……お月様……」

 娘は、それを、綺麗ねえ……とか、やっぱりこうやって光るのねえ……なんて言いながら、ひとしきり眺めていた。

「もうすぐお家だよ、お月様を空に返してあげなきゃ」

 しばらく娘の言葉を聞きながら歩いていた父親は、街灯に照らされながら、娘にそう言った。

「エ……こんなに綺麗なのに……?」

「うん。でも、お月様は皆のものだからね……空にお月様がなくなったら、皆夜空を見上げたときに、ビックリしてしまうよ」

 父親にそう言われて、娘は、渋々手に握ったビー玉を差し出した。

「優しいね……偉い子だ……」

 父親は、娘にそう言って、手の親指と人差し指に黄色いビー玉を挟んで、空に掲げた。すると、ビー玉は空の月となった。

「お空にあるお月様も綺麗ね」

 娘の言葉を聞きながら、父親は頷いた。

 空では、月が二人をにこにこと見下ろしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る