第25話 古巣#3

「……何だと?」


 突き抜けた稲妻が、シルビアの頭から爪先までを麻痺させた。


「あんたたちの異能は、その母親から受け継がれたのよ」


「母親って誰だ、どこにいる」


「死んだわ。あんたたちを産んですぐにね」


 そう言われて、気づかないうちに浮いていた尻を、シルビアはゆっくりと椅子に戻した。



 実母がいた。



 今までは略奪に遭ったなら殺されただろうと思い、気にすらしてこなかった。

 だが実際は、結局は死んでいたが、事実はまったく異なっていたのだ。


「名前は? あたしらの母親は、何て言うんだ?」


「ユリアよ」


「ユリア……」



 まったく聞いたことのない名だ。


 肉親という、最も近い存在のはずなのに、最も遠くにいる存在。

 

 どんな顔だったのか。

 どんな声で、どんな風に喋ったのか。

 どんな性格だったのか。


 会ってみたかった。


 遠目でもいいから、一目でもいいから姿を見たかった。



「父親は?」


「知らないわ。私は会ったこともない」


 昼間、ヒルダは仲間の指示でシルビアたちを連れ去ろうとした。


 その仲間というのは、もしかしたら父親ではないのか?

 自分の娘を取り戻すため、ヒルダに頼んだのではないのか?


 それをはっきりさせるには、やはりその仲間とやらに直接会うしかない。


 なら、どうやって会う?


 今はそこまで考えられず、とりあえずこの事実をオリビアに伝えようとだけ決めた。



「約束っていうのは、ユリアとしたのよ。異能のことでね」


 ルドヴィカは吐き出すように言った。


「異能を作り出したユリアは、いずれ異能が世界を滅ぼすと考えた。だから封印しようとしたの」


「だから、お前はヒルダを殺しに来たんだな」


 ユリアとの約束を果たすべく、異能の存在を封印するために。


 抱えていた疑問は解決したが、新たな疑問がふと浮かんだ。

 だがそれは、シルビアがシルビアである故に、訊くのは躊躇われた。


「封印したかったなら何で、産まれたあたしらを殺さなかったんだ?」


「……殺そうとしたのよ」


 ルドヴィカは静かに答える。

 溢れようとする感情を押さえつけているようだった。


「でも出来なかった。あいつは母親として、あんたたちに情が湧いたからね。私がろうともしたけど断られたわ。育てるにしても、孤児院に預けるわけにはいかないでしょ。だから、私が育てることにしたのよ」


 私にはやるべきことがあって、この子たちを育てられない――。


 ユリアはそう言って、ルドヴィカに双子を託したという。


「それからすぐだったわ。あいつが死んだと聞かされたのは」


 それを聞いて、シルビアはユリアが言ったやるべきことが何だったのか、うっすらと想像がついた。



 だが、そうまでして葬ろうとした異能を、何故ユリアは生み出したのか?


 それに、結局異能が何なのかも分からない。父親が誰なのかも。



 それらが頭に浮かんでは消えてを繰り返していたが、表が騒がしくなったことでシルビアの意識は切り替わった。モニカたちが戻ってきたのだ。

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