第3話 俺と妹の決着

やっばいなアイツ、取り敢えず距離を取らなければ。俺の放てる最大の魔法なら多少なりとも、ダメージは与えられるはずだ。

「凍えろっ、氷鳥舞!」

俺の詠唱と共に10匹の氷が俺の周りを漂う。魔法陣を描き終えると、氷で10匹の白鳥が作られた。

ちなみに、俺の属性は水。アイツとは対極だ。属性というのは基本的には五つだが、天才がすぐ新しい属性を派生させてしまうため、山ほどある。普通は、火、水、風、土、雷だ。ベタだろ?

そうやって派生した自分だけの属性は、固有属性と呼ばれる。また、その属性で使う魔法を固有魔法という。

まあ、その話は置いといて。

「紅!喰らえ!」

手を振りかざすと同時に、白鳥が口ばしから突撃していく。行け!紅の1cm近くまで行きーーーその瞬間ただの水と化した。

「固有魔法、炎神の鎧。固有属性は炎よ」

紅から発せられる熱で、空間が歪んでいる。

どうやら、杖の効果で魔力を増幅させ、身にまとっているのだろう。恐らく、俺が今アイツの体に触ったら、ドッロドロに溶ける。夏の時のアイス並みに。

あー、やっぱり変なフラグ立てたのが失敗だったか。俺の最大の魔法を簡単に溶かされるとは・・・

「さあ、行くわよ」

紅がまた距離を詰めてくる。何回もやらせるか!懐に潜り込まれる前に、足元の砂を思いっきり蹴り上げる。

「うわ!ちょっと、卑怯よ!」

紅は全速力だったので、どうやら目に入ったようだ。初めの攻撃をもう一回やられたら俺はお陀仏してしまうだろう。だから、全力で逃げる!はっ、ざまーみやがれ。

その隙に、策を考えてやるぜ・・・

「出でよ、氷連山」

俺のこの魔法によって、複数の氷山が出現した。

この技は俺みたいなビビりには、最も適した技だ。

少ない魔力で素早く発動できる。それに、何たって氷山が大きいから隠れ放題だぜ!

基本的には劣等生の俺だが、目くらまし等の魔法においては優秀だ。やはり性格が出るんだろう。ま、取り敢えず隠れるか。

「ねえ、隠れるなんて卑怯だと思わないの?アンタ、バッカじゃない」

紅が大声で俺を挑発してくる。

そんなしょうもない煽りで姿現すなら初めっから隠れてねえわ。バカはお前だ。

「しょうがない、コソコソするなら魔法で吹き飛ばすわ」

何かを決意したような声で紅がそう言った。

いや、さすがにこの範囲は吹き飛ばせねえだろ。あ、しまった。また余計なフラグを

「天より降り注ぐ炎よ、この男を断罪せよ」

詠唱怖すぎだろ。いや、俺断罪されなきゃいけないようなことしてねえわ。

紅のほうを注視していると赤い魔力が、アイツの周りに集まっている。準備は終わったようで、紅が天に手をかざす。

「炎王の雷!」

放たれた魔法は、俺の氷山を一つ残し、あとはすべて地面ごと抉られた。いや、抉られたなんてもんじゃない。地面に10m近く穴が開いていた。

「やっぱりね、どうせアンタは一番奥に隠れてると思ったわ」

いや、隠れてなかったら俺は死んでたぞ。人の命は大切にしよう。

「早く練習相手になりなさいよ、殺したりはしないから」

まあ、ここで出て行ってボコボコにされんのも、ありだろう。だが、俺はとっくに気が変わっていた。俺は、兄のプライドとして、コイツの腐った性根を叩き直す!

「凍えろ、氷鳥舞!」

俺は秘かにためていた魔法を放つ。

「そんな攻撃効かないわ」

正面から飛んできた白鳥は当然、全部溶かされた。

「今ので、終わりね。そこ!」

紅が残りの氷山に向かって炎を放ち、その氷山は溶けた。相当な温度だったらしく、煙が立っている。

「これでもう、隠れる場所は無いわよ。あと、煙で隠れてるつもりかも知んないけどアンタの居場所見えてるからね」

紅がゆっくり俺がいると思っている方向に歩いていく。そして、人影に向かって、炎の弾を放つ。絶体絶命・・・なわけねえだろ!紅が炎の弾を放った物は、ただの氷像だった。

かかったな、紅。甘えよ!俺は紅の死角から、もう一度氷鳥舞を放った。

俺の目論見通り予想外だったらしく、顔にもろに食らった。紅がバランスを崩したのを見て、チャンス!俺は走り出した。

「甘い!」

紅が炎の弾を放つ。当たんねえよ、舐めんな!俺は最後の攻撃であえて、顔を狙った。壊したとしても、氷の欠片が目に入る。しかも、思いっきり喰らったそんな状態で攻撃が当たるわけねえだろ!

「喰らえええええええ!」

俺は紅の懐まで詰め寄り、顎にパンチを入れた。俺の手、焼けてないよな?しっかり自分の手があることを確認し、胸を撫で下ろした。

「ふう、ゲームセットだ」

倒れた紅に馬乗りになり、

「さあ、解説をしてやろう」

ドヤ顔で言った。取り敢えず、紅から降りる。

「まず、俺が勝機を生み出したのが、お前の防御技、炎神の鎧とやらは、別の技を使いながらだと使えないってことからだ。お前が俺の氷山を吹っ飛ばしたときに、消えていた気がしたから氷鳥舞で確かめてみた。そしたら、案の定。おそらく、別の魔法発動後20秒近くは使えないんだろ?お前、あの吹き飛ばし方は悪手だったな」

「うっさい、死ね!」

紅が顔を赤らめている。俺に負けたのが相当恥ずかしいのだろう。

「次に、どうやってお前の死角から攻撃をしたのかというと、そうだな。一言で言うならお前の行動を読んだ」

「はあ」紅が不審そうな顔をする。

「アンタごときに読めるわけないでしょ」

「俺は昔から洞察力だけあってな、まず、お前がわざわざ大技で氷山を破壊した。あの時思ったんだよ、もしかしたら未完成の技を使うための実験なんじゃねってな。そして、お前の属性は火か炎だろ?だから氷山を壊したときに、煙が立つだろうと予測していた。だから、氷像を作り、煙が立っているうちに走った。もしあそこで気配がバレたら終わりだったけどな。お前、油断しすぎだろ」

「じゃ、じゃあ最後はどこにいたのよ!」

「それはいたって簡単。氷の壁を作って風景を反射させたんだ。案外、バレないもんだろ?」

紅がどこかしおらしい声で

「何で、そんな私の攻撃を読めたの?」

「それはもちろん、兄だから、かな」

決まったー。今のはメチャクチャかっこいいだろ!これで俺にラブコメだったら惚れるレベル!

俺がドヤ顔でいると、紅に鳩尾を殴られた。すぐ暴力はやめろって・・・

「やっぱり強いんじゃない、バカ」

紅のつぶやきはしっかり聞こえちゃったので、無視した。

その紅のつぶやきに気を取られたせいで、背後から聞こえたシャッター音にはに気付かなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る