第2話 俺と妹のガチバトル

紅のサンドバック発現の翌日、朝五時から魔法の練習場で何故かランニングをしていた。

ちなみに、この練習場は学校に五つある。そのうち一つは修理中だ。

このアホが壊したせいで。

あと、許可さえとれば好きな時に使っていいらしい。全然やる気ないから知らなかったけど。

今の格好は、普通の制服。この制服は魔導士専用となっていて、多少衝撃を弱める効果があり、汚れも付きにくいので練習時にはお勧めだ。

「はい、もう止まっていいわよ。足遅すぎでしょ。ホントに使えないわ」

10キロ近く走らされたところで、ようやくストップの合図がかかった。というか、何だコイツ。

俺をマラソン選手にでもする気か?

「何で朝からこんな走らされてんだ?」

「はあ、普通に考えて今から模擬戦するからに決まってんでしょ?常識って知ってる?」

「あちゃー、僕は普通じゃなかったみたいだ。じゃあ、異常な僕と一緒にいると品位が疑われちゃうね。だから、帰るとするよ。バイバイ!」

小走りで扉に向かう途中で、後ろから金切り音が聞こえた。

すると、青い熱線が光の速度で飛んできて、俺の頬をかすめた。振り向くと、紅が指から煙を出し、般若のような顔で睨んできた。

「じょ、冗談ですよー」

こえええええ。というか、無詠唱便利だな。

「というか、模擬戦ってどういうつもりだよ」

「昨日言ったでしょ、サンドバックになれって。要するに新しい魔法の実験台になれってこと」

じゃあ、初めっからそう言えや。

「何その目、不満でもあんの?」

紅が詰め寄ってきた。あ、いい匂い。

「いや、無いです」

「じゃあ、とっととストレッチしろ!」










「はい、じゃあ始めるわよ。」

ランニングをし、ストレッチをした後、肩を伸ばしながら紅がそう言った。どうやら、今から模擬戦を始めるらしい。マジでやりたくねえ。

「アンタはとりあえず本気でかかって来なさい」

完全な上から目線。まあ、アイツのほうが強いし、事実なんだけど・・・

「なあ、妹に暴力は振るいたくないんだが」

「アンタごときの攻撃が私に当たる訳ないでしょ」

その通りすぎた。しょうがない、俺は痛い思いしたくないからな。

固有スキル(俺が考えた)

「演技」を見せてやろう。俺の演技力はアカデミー賞をも取れる。はず。

「ちなみに、手加減したら病因送りね」

途端に顔が戦闘モードに切り替わり、殺気が漏れ出す。くそ、俺の手の内は読まれているようだ。

ブワッと紅の魔力で砂埃が起き始める。おいおい、兄にも本気かよ。いや、兄だから本気なのか?悲しくなってきた。

紅が魔力を集め、杖を呼び寄せる。これは召喚魔法で、遠いところにある道具を一瞬で呼び寄せられる。

この杖は魔道具と呼ばれるもので、魔力を高めたり、射程距離を高めたりできる。だが、世間一般的には魔道具はあまり使われない。

なぜなら、強い魔道具は相当高価で、その金を稼ぐよりだったら、魔力を自力で強めたほうがましだから。

だが、紅の杖を見る限り相当高価なものなのだろう。

詳しくは分からんが。おそらく、あいつ自身が優秀なため、専属の魔道具職人がいるのだろう。モテる者はさらにモテ、強いヤツはさらに強く。

悲しきかな、自然の摂理。



「じゃあ、始めるわよ」

開始宣言と同時に紅がダッシュで懐に潜り込んできた。

取り敢えず、魔力で全身をガード。紅が右手を振りかぶり、パンチを喰らわせようとしてくる。俺に勝ち目は薄い!だから、開始早々のカウンターで終わらせる。

俺の全魔力で受け止め、思いっきり顎を殴る。顎にちょっとでも掠めれば、少ない魔力の俺の攻撃でも、気絶は免れないだろう。

卑怯だなんて言うなよ?これしかねえんだよ。

よし来い!受け止める直前でーーー 俺は全力で横に跳んだ。

爆発音とともに煙が立ち上がる。さっきまで俺がいた場所を見ると、マグマで溶けていた。

は?どうやら、紅は手にマグマを纏い殴ったようだ。それも当然驚いたのだが、何より驚いたのが本気で俺を殺すレベルで戦っていることだ。

「本気でやるって言ったよね?」

全身に鳥肌が立った。というか、どうせ殴るなら杖で殴れや。

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