第1話 妹にボコボコにされることが決定した

俺はクラスでは、ザ普通だ。

話そうと思えば誰とでも話せるが、リア充ほどのコミュ力はない。そんな俺だが今、人生最大の人数に囲まれていた。バレンタインだったら喜んだんだけどな・・・

理由は単純、さっきのテストでバカみたいな力を示した、俺の妹の話を聞くためだ。

まあ、当然紅も、囲まれてるわけだが、笑顔で対応していた。家だといつも暴言しか吐かねえくせによ。

「なあ、紅ちゃんって彼女いるのか?」

「紅ちゃんに交際してる人はいるのか?」

「好きな人とか居そう?」

質問被ってるし。というかそんな気になるなら本人に聞きに行けよ。

まあ、要するに本人に話しかける度胸がないビビり共が俺のところに集まったわけだ。

しかしその鬱陶しさはまだ我慢できる。問題は・・・

「ねえ、蒼君。妹ちゃん紅っていうんでしょ。家だとどんな感じなの?」

完全に初対面の奴まで話しかけて来ることだ。まず人に質問をする前に名を名乗れ、って超言いたい。あ、ちなみに蒼が俺の名前で、紅が妹の名前な。俺のフルネーム月城 蒼だぞ。カッコよくて俺個人のスペックと釣り合って無いから両親を若干恨む。

まあ、それはさておきこの発情期のサル共をどうするか・・・

「ねえ、どうなの?」

「おい、月城どうなんだよ?」

あーイライラする。人に囲まれんの好きじゃねえんだよな。

考え事している最中にも、「おい」「ねえ」どんどん質問が飛んでくる。チッ、とりあえずなんか適当に答えるか。

尚且つこいつ等が質問してこないように・・・

「紅は俺と家でいっつもイチャイチャしてるぞ、お前ら俺たちのイチャイチャ生活を聞きたいのか?」

あ・・・絶対ミスった。

「ホントか?」

もういいいや、どうにでもなれ。

「ああ、ホントだ。風呂も一緒だし、寝るときも一緒だぞ」

この答えを聞いた奴らはそそくさと俺から離れていった。帰ったらどうしよう。

まあ、その後は誰も寄ってこなかったが。




「ただいま~」

恐る恐る玄関の扉を開ける。

「あら、お帰り」

母親が料理を作っているとこだった。ちなみに専業主婦である。

「ねえ、今日紅が凄い不機嫌だったけど、魔導士としてのテスト失敗でもした?」

皿洗いを片手間に小声で聞いてきた。やっぱり不機嫌だったのか。俺のあの発言が100%原因だよな。やっちまったなぁ~。

「いや、大成功だったぞ」

「一体どうしたの? 何かトラブルでもあったのかしら」

まさかその原因が俺だとは夢にも思うまい。

「さあな、本人に聞くのが一番だろ」

ちなみに、ここで俺が理由を正直に答えたら間違いなく親父に殺される。

俺の親父は、魔導士を取り仕切ってる魔導士協会に所属している。

当然実力もある。つまり、当然殺される。これ常識な。

階段を上り部屋に戻ろうとすると、俺の部屋の前で紅が仁王立ちしていた。

その目はまるで、狩りを始めようとする狼だった。

さしずめ俺は震える鹿だな。

「一旦入れ」親指で部屋を指差した。

いや、俺の部屋なんだけどな。



紅は俺の部屋に一つしかない椅子に腰かけ、俺をカーペットに正座させた。

「何が原因か分かってるでしょ」

「見当もございません」

紅の放った炎が俺の1cm手前に穴を開けた。

「言いたいことぐらいは聞いてあげるわよ。死ぬ前にね」

俺の死刑が確定してしまった。

「これには深い理由があるんだ」と前置きおして、その間に天才的な言い訳を考える。

「お前は外でぶりっ子だろ?」

「もう一回言ってくれる?」

手から青白い炎が発現した。すぐ、魔法を使おうとする。野蛮人の極みだな。

「外でお前はみんなに優しくしている訳だろ?だが、俺は家でのお前しか知らない。だから、余計なことを言えば皆からのお前のイメージが崩れたしまうと思ったんだ。それは避けたいだろ」

紅が考え込む素振りを見せる。どうだ、この完璧な言い訳。

「確かに、一理あるわね」

「だろ?じゃあ・・・」

「どっちみちイメージは崩れたし、というかブラコンとかマジで最悪なんだけど、それならまだ本性がバレたほうが良かったわ」

「じゃあ、どうしろって言うんだ。馬鹿正直に寝起きが悪くてすぐ暴力振るう我がまま女だって言ったほうが良かったのか?」

「ダメに決まってんでしょ。そこは、アンタがどうにかしなさいよ!」

コイツ無茶振りしすぎだろ。

「まあ、反省してるなら死刑は無しにしてあげるわ」

よっしゃぁぁぁ~~~。どうやら俺の善意が伝わったようだ。というか、本気で死刑にするつもりだったんかい。

「ただ、条件があるわ」

「何だよ」

「アンタ、毎朝私のサンドバックになりなさい」

あ、死刑より重かったわ。








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