茅根家と食事
千夏の部屋で特に何も起こらず約一時間後。
扉の向こうから声が聞こえた。
「ご飯出来たからおいでー。」
その声は春の声だった。
それを聞いた千夏はベッドから立ち、
「それじゃ行こっか。」
「うん。そうだね。」
悠と千夏はリビングに向かい、テーブルには既に料理が並べられていた。そして、既に座っていた千夏の妹の優子は悠を歓迎してない様子だった。
(なんかめっちゃ睨まれてるんですけど……!?)
悠は優子から目を逸らし、椅子に座る。
座ると同時に悠にしか聞こえない大きさで舌打ちをする優子からなるべく離れるように椅子を動かす。
「それじゃあ、いただきます。」
拓の一声にみんなもそれに合わせて、食べ始める。
「悠君。」
「はい?」
声をかけて来たのは春だ。
春は不思議そうに悠をじろじろ見た後、言葉にする。
「どこかで会ったっけ?」
「う………。」
(会ったって言いたい。でも、新垣悠の姿では初めて会ったのは入学式の時なんだ。前世で会ったって言っても、きっと信じてもらえない……)
「初めてお会いしたのは入学式です。それ以前は会って無いと思いますよ?」
悠は言いたい気持ちを堪え、春の問いを否定する。
そうすると春は不思議そうに頭をひねる。
「そーだっけー?」
「そうですよ。」
春に微笑み、自分の言いたい事を隠す。
(雰囲気から感じ取られたのか?いやでも、田中負拓と新垣悠には違いがありすぎる……。じゃあなんで?)
悠は不思議に思いながらも料理をいただく。
「……美味しい。」
自然と感想がこぼれる。
それを聞いた春は嬉しそうに。そして拓はうんうんと頷いていた。
「そう言えば悠君が千夏のあの事をどこで気づいたの?」
(あの事って……悪千夏ちゃんの事か。)
「それは本当にたまたまで……廊下を歩いている時、外で千夏ちゃんが愚痴をこぼしているのが聞こえて。」
「お姉ちゃん、そんな所で愚痴こぼしてたの?」
「その時は……本当に疲れてたの…………。」
「そ、そうだったんだ。」
(それで疲れて愚痴を吐いていた千夏ちゃんをたまたま俺が見てしまったと。これは偶然だったのか、それとも見てしまう運命だったのか……。)
その後も会話は続き、茅根家の温かさを感じながらも、昼食を食べ終わり、帰る事になった。
「それじゃあ。お邪魔しました。」
「また遊びに来てねー。」
「別に来なく–––––」
優子が何かを言っているのはわかったが、声が小さく、言葉の全体を把握出来なかった。
「あっ、私送っていくよ。」
「ん。ありがと。」
「悠君。」
悠が靴を履いていると後ろから拓の声が聞こえ、振り返る。
「はい?」
「千夏をこれからも頼むよ……。」
「––––はい!」
大きな返事をした後、悠は扉を開けた。
隣に前世の初恋相手の娘がいるんだが。 カイザ @kanta7697
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